株式会社 構造ソフト

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■偽装事件とその後の新法の運用について


大臣認定制度の運用は間違っていないか?

[印刷用] 【PDF 173KB】
2007年7月5日(木)
株式会社 構造ソフト
代表取締役 星 睦廣




1.始めに

 プログラムメーカーにとって「大臣認定プログラム」は、ステータス・シンボルともなるもので、プログラムの大臣認定取得は目指すべき目標でもありました。

 そのような崇高な輝きを放つ大臣認定プログラムが今回どう変ったのか?

 ここでは、新しい大臣認定制度の位置づけを明確にすると共に、大臣認定プログラムの運用が現況の方向で進むならば、充分な偽装防止策にならないばかりか、かえって危険なことになるため、運用が始まるこの機会に「大臣認定制度」とは何なのか、その位置づけと運用のあり方を整理してみます。



2.大臣認定プログラムと審査料金

 新制度における適合性判定申請手数料(以下審査料金)は、大臣認定プログラムと非認定プログラムで料金が異なる運用が始まろうとしています。例えば2,000u超〜10,000u以内の建物の場合、大臣認定が15万円、非認定が25万円の審査料金がインターネット上で見つけることができます。

 非認定プログラムの55%〜65%が大臣認定プログラムでの審査料金となっているようです。

 ここで恐いのは、この辺が前例となって既に浸透してしまっていることです。何を恐れているかというと、大臣認定プログラムは審査の省略ができるとの考えのもと、この金額に相当する割合で、40%も審査の省略をしたとするなら、それこそ危険なことが発生します。構造設計者のミスやプログラムのミス等の見過ごしも起こるし、もしかして重量を少なく見積もった偽装が行なわれたとするなら、それも見逃してしまうことになってしまいます。

 偽装防止策の急先鋒として、鳴り物入りで世に知られた新しい大臣認定プログラムが、実は偽装防止策にならないばかりか、最も危険な存在になろうとしているのだから、運用の面でボタンの掛け違いが起こっていると言えます。

 なにゆえ、このような運用が始まろうとしているのでしょうか?

 それは半年以上前に遡りますが、国交省がプログラムメーカーに対して新しい大臣認定プログラムに関する説明の場面がありました。当然多くのプログラムメーカーに、率先して大臣認定プログラムを作ってもらう必要性から、「審査の省略のもと審査料金を安くできるメリットがある」と述べたことが発端となっています。そして審査指針(案)でもその差別化がうたわれていたため、このことが法の施行直前まで生きており、前述したような審査料金の差となって現れたようです。

 しかし、6月20日に発表された告示「確認検査等に関する指針」を読むと今まで聞き伝えられたこととは違っており、「審査料金に影響する話がなくなっていたこと」に気付いた人は、はたしてどれくらいいたでしょうか?


3.新しい大臣認定プログラムと「図書の省略」

 大臣認定プログラムの前身であった評定プログラムの時代には、「計算過程に係わる部分の審査が省略できる」と定義されていて、「計算過程」という曖昧な表現には困惑させられた記憶がよみがえります。その後、従来の大臣認定プログラムでは「図書の省略」のもと審査の省略を全面的に打ち出しましたが、本格的な運用が始まる前に、姉歯の偽装事件で頓挫してしまったのは、周知の通りです。

 新しい大臣認定プログラムの位置づけは、法の施行日に「確認審査等に関する指針」が出て明らかになりました。一言でいうなら、「図書の省略」ができるという点で、従来の「図書の省略」の考え方と変りはなかったと言えます。

 大臣認定プログラムの特徴は2点あり、「@図書の省略のもと審査が簡略化できること」「A偽装防止や誤った使い方をされないように様々なチェック機能やメッセージが追加されたこと」です。

 @の図書の省略ですが、偽造防止策の検討を始めた当初の社会資本整備審議会等の会合では、「図書の省略」をしては偽装防止にならず、見逃しに繋がることから、「図書の省略」の入る余地などありませんでした。

 また告示や現時点の業務方法書等を鑑みても、大臣認定プログラムの出力仕様で「図書の省略」をしている箇所は、ほとんど見当たらないと言えます。

 このように審査の省略箇所が無いことから、審査料金が安くなる話はありません。むしろAにおいてより多くのチェック機能によりメッセージも多く出力するため、それに伴ってユーザーの所見も多くなり審査料金が高くなる方向にあると言えるかもしれません。


4.プログラムの信頼性と図書省略等の担保

 大臣認定は、日本建築センターにてプログラムの性能評価を受けて取得するため「信頼性がある」とも言えます。「信頼性がある」から「図書の省略」ができる。また「図書の省略」は「審査の省略」に直結してよいと告示にうたわれている。

 つまり「信頼性がある」から「審査の省略」が出来ると言える。しかし、審査の省略により入力ミスやプログラムミスを見逃すことになったら、それは構造技術者やプログラムメーカーに死活問題となる重罰がくだる、という流れも大臣認定制度のルールとなっています。

 これを別な言葉で例えるなら「この車は信頼性が高いので、夜ライトを点灯しないで運転をしてよい。但し事故を起こしたら運転者又はメーカーに死活問題となる重罰がくだるけどね」と言うようなもので、冗談ならともかく、法に基づくルールなら、無理があり危険でついていけません。

 このルールの問題は、「図書の省略」や「審査の省略」をする担保が「信頼性がある」という曖昧なところにあります。

 大臣認定プログラムにおいて「図書省略」がされ、それに伴って「審査の省略」ができるとするなら、プログラムの性能評価も「図書の省略」に見合った性能評価でなければならないはずです。つまり「審査の省略」を可能とするに値する責任ある性能評価をすべきであるわけです。しかし、担保となるべきところに対してどのような性能評価をするかは現在曖昧であり、また性能評価をした方(国土交通大臣)がそれに対して責任を持たないあり方は、大臣認定制度の意義を見失うことにも繋がり、辻褄(つじつま)が合わないと感じています。

 今後プログラムの性能評価が始まりますが、この性能評価は大臣の責任のもとで何を担保とするものなのかを明らかにして、それに見合った性能評価をして頂く事で進めることを望むものです。


5.大臣認定プログラムの活躍の場

 新しい大臣認定プログラムは、大臣が認めた新たな法であるため、法令・告示や施行規則と異なった計算や出力様式であってもよいわけです。しかしながら、今回新たなる設計法を打ち出すには及んでおらず、現行法の範囲で偽装防止策にもとづきメッセージの追加や審査のし易い出力を明確にしたことに留めています。この辺は業務方法書により明文化されていますが、これらの多くは告示や施行規則にもある程度盛り込まれたため、非認定プログラムの要件と大臣認定プログラムとの違いが見えなくなってきていると言えます。
 特に新制度に対応した「BUILD.一貫W+」は、非認定プログラムであるが、大臣認定プログラムの要件を満たす機能を含み、進化し続けます。

 さらに、非認定プログラムであってもCDにてデータを提出することで「再計算」も行なう運用も始まることから、今後その差はほとんど無いと言えます。

 ゆえに大臣認定プログラムがその存在意義を発揮し活躍するときとは、法ギリギリの設計をしている時代から脱却し、免震構造だけでなく、制振構造等の工法が容易に選択でき、様々な耐震性能が追求できる10年後〜20年後であろうと想像します。この時代は、法ギリギリの余裕のない設計は皆無になっているときで、現在のような大掛かりな審査は必要なく、適判員も不要で審査が簡略化できる時代です。民・民(マンションの売主と購入者等)が民・民の信頼と責任で耐震性能を決めるため、「図書の省略」のもと審査の効率化を計ることができます。大臣認定プログラムはそのような時代に登場するのが相応しく、これが本来のあるべき姿であると思うのです。


6.おわりに

 偽装防止策に基づいて、国交省の担当者には「法の施行時には大臣認定プログラムを間に合わせ、それにて運用を始めること」との絶対条件が与えられました。そのせいか、法の施行日まで「大臣認定プログラムありき」で突き進みました。「国の管理下にある大臣認定プログラム以外はプログラムにあらず」といった雰囲気を感じ、様々なことを危惧致しました。

 この危惧が解消されるにはもう少し時間を必要としますが、いづれにしても新しい運用が始まりました。法が施行された今だからこそ一歩引いて、関係者の皆様は冷静にその全容を見渡す必要があります。

 建築構造技術者にとっては、今回の法令改正や大臣認定制度が何をもたらし、設計や審査がどのように変ろうとしているのか、を見届ける必要があります。
そして、本来のあるべき姿からかけ離れているならば、軌道修正すべきところは修正を要求し、社会に根付くシステムを築かなければなりません。

 よりよいシステムへ脱皮を重ねて、民・民の信頼と責任が社会に根付くなら、それに伴って今度こそ構造技術者の職能の確立が出来ることになります。

 失われた信頼を早期に回復して、そのような日が来ることを祈願いたします。

株式会社 構造ソフト
代表取締役 星 睦廣




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