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■偽装事件とその後の新法の運用について


住民のためにならない改正建築基準法の問題と改善策

[印刷用] 【PDF 263KB】
2007年10月25日(木)
株式会社 構造ソフト
代表取締役 星 睦廣




1.始めに

 性悪説に基づく法の改正とその運用は既に始まっておりますが、このまま進んでも住民が安心して住めるマンションにはならないようです。短時間にて大掛かりな法の改定を行った結果、予想外の審査業務の停滞が起こり、基本的なところで軌道修正を余儀なくされる部分が出ています。
 ここでは、偽装防止における基本的な視点を示しながらその問題点を浮き彫りにし、最後のまとめの項にて、その改善策を示しました。

 本文は、建築関係者だけでなく一般の方にもわかるように、平易な表現で記述しています。それゆえ専門用語は避けておりますが、建築関係者の方に対する正確性を記すための補足説明は、文中に(*1)等の番号を付け巻末に注釈を添えました。


2.異常事態:中高層建物が着工できない

 耐震偽装事件から1年半が経った2007年6月20日に、改正建築基準法が施行されました。この直前に国交省(国土交通省)の会見室にて私は新法に対応したプログラムの出荷を始める発表を行ないました。このとき記者から予想外の質問が…、“なぜプログラムの出荷が間に合ったのですか?”と。当時ソフトメーカー各社は法令告示の詳細明示が遅れていたためにプログラムは間に合わず、2〜3ヶ月は遅れると話していました。  
 ところが遅れずに出荷を始める発表だったため記者は“なぜ間に合った?”と疑問を投げかけたわけです。私は「プログラムが3ヶ月遅れれば、遅れに相当する期間建築業界がストップするため社会的影響が大きい。よって不確定部分を予測して早めの開発をし、5月の連休も返上して間に合わせた。」と答えたわけです。

 しかし、プログラムの遅延とは違う理由で心配した問題が現実化してしまいました。
それは設計図書の確認審査等が予定の期間で終了せず、認可されないため中高層建物の着工がまったく出来ないことです。法が施行されて既に4ヶ月を過ぎましたが、改善できる手が打てないまま中高層建物に関して着工できない状況は変わらず、異常事態が長期に渡って続く模様です。

8月の首都圏マンションの新築住宅着工戸数
8月の新築住宅着工戸数6万3千
8月の前年同月比 71.7%減
8月の前年同月比 43.3%減
 前年度1年間の新築住宅着工戸数は128万戸で、この戸数には一戸建住宅の他、アパート・マンション等の集合住宅の(棟数でなく)戸数も含みます。
 一戸建住宅や小規模住宅は動いていても、中高層建物の動きは停滞しているのが現況です。(統計数値は、国土交通省発表 建築着工統計調査より)

本書を書いた後で発表された統計数値を追記します。
9月の首都圏マンションの新築住宅着工戸数
9月の新築住宅着工戸数6万3千戸
9月の前年同月比 85.9%減
9月の前年同月比 44.0%減
10月の首都圏マンションの新築住宅着工戸数
10月の新築住宅着工戸数7万7千戸
10月の前年同月比 73.0%減
10月の前年同月比 35.0%減
11月の首都圏マンションの新築住宅着工戸数
11月の全国マンションの新築住宅着工戸数
11月の新築住宅着工戸数8万4千戸
11月の前年同月比 59.2%減
11月の前年同月比 63.9%減
11月の前年同月比 27.0%減
12月の首都圏マンションの新築住宅着工戸数
12月の全国マンションの新築住宅着工戸数
12月の新築住宅着工戸数8万7千戸
12月の前年同月比 50.7%減
12月の前年同月比 49.7%減
12月の前年同月比 19.2%減


3.新法改正の目的:“偽装防止策”か“住民の安心”か

 耐震偽装事件を教訓として、今回の法改正に求められたものは、マンション住民の安全・安心を守ることでした。再任された冬柴国交大臣も改正された新法に対して「住民が安全・安心できるもので、国民に快適で豊かな住生活を保障すること」と抱負を述べられていることからも明らかです。
 しかし、国交大臣の「住民が安心できる住生活…」を目指すものにはなっておらず、性悪説に基づく偽装防止策のみに重点をおいた新法を作り上げました。偽装するようなやつは許せない。厳罰だ!というスタンスのものです。
 この怒りは理解できますし、同感です。しかしその結果出来上がった法が“住民のためにならず以前より住民の犠牲者が増える”ならそれは違うのでは…と思うのです。

 目的とするものが“偽装防止策”なのか、“住民の安心”なのかの違いは、その結果に大きな差が生じます。新法は“性悪説に基づく偽装防止策”であったために、マンション住民が安心できるものにはならず、むしろ安心が今までより後退してしまうという法の改正(正確には改悪)になってしまっていました。
 さらには、審査機関における検査・審査の停滞が発生しています。

 国交大臣は、法の改正時の最初に起こる“不慣れ”による混乱と解釈していますが、そうは思えないのです。法改正の目的が“偽装防止策”であり、“住民の安心のため”でないゆえに、基本的な問題のところでボタンのかけ違いが随所で見受けられます。

 現在起こっている事態を人間に例えて表現するなら、血管が細くなり血液が十分に流れない状態であり、さらに進むと動脈硬化や脳梗塞に発展するという無視できない問題も含んでいます。

 なぜそうなってしまったのか?其の原因は多くの政治家の方が、偽装事件を二度と起こしてはいけないと怒りが先立つあまり、国交省へ性悪説に基づく偽装防止を必要以上に強調し過ぎ、結果として偽装防止に繋がる罰則だけはできあがったものの、大事なものを見失ったまま法が出来てしまったように思うのです。


4.停滞の問題:“確認審査の停滞”と“設計者の減少による停滞”

 確認審査等が停滞して進まない理由は、計算方法等の詳細を法に格上げしたためで、その解釈を誤ると法違反になってしまい、いとも簡単に社会から抹殺されるシステムが出来上がったからです。これにより検査・審査員が勝手に法の解釈をするわけにいかず、統一した見解に照らし合わせて審査するため、不明な点は国交省にいちいち聞かないとシステムが回らないことになってしまいました。

 国交省は、構造設計に関わる法の解釈を記した技術基準解説書(全720ページ)を8月中旬に発行しました。しかしそれに照らし合わせて判断すれば済むほど簡単ではなく、記述されていない部分をどう解釈するのか、さらなるQ&Aの作成が際限なく続いています。

 構造設計においては、白黒付け難い話が山ほどあるために、不完全なままのQ&Aに照らし合わせる運用には限界があるだけでなく、杓子定規な運用は新しい技術や研究成果の採用を(法の解釈に無いとして)排除することにも繋がり、技術の衰退を招くことになります。(*1)
 せっかく経験豊富な構造技術者を実務設計のかたわら判定員(構造計算適合性判定員)として迎え入れたのですから、国が定めるQ&Aは最低限に留め、“構造技術者三人寄れば文殊の知恵”を活用して、価値ある回答を判定員2人と構造設計者の3人で見出すことを採用すべきです。すなわち判定員にその判断を権限委譲し任せる柔軟な運用が、停滞を解消するだけでなく住民のための法改正に繋がると考えます。

 確認審査等の停滞だけでなく、構造設計をする人たちが少ないために構造計算の需要に追いつけず(構造設計をやってもらえないため)、積み残しとなっている停滞があります。それは構造計算の手間が増大し、長い検査・審査期間に付き合うために、2倍の作業量になっているのが起因します。このことだけでも今までと同じ物件数を処理するなら2倍の技術者が必要となりますが、2倍どころか減少しているのが現実です。まず、構造技術者の一部は、適合性判定機関に出向することで、設計実務ができなくなっています。さらには技術者の資格制度によるふるい落しや後ろ向きな運用から、この世界に希望すらもなくして去っていく人たちも少なくありません。特に次代を担う若者の入門にも影響するようで問題は長期的になりそうです。

 構造技術者の足切りをどうするかというよりは、どう技術者の育成をはかるか?との視点で構築する必要があり、資格試験を足きり目的に拙速に進めると、社会が回らないという事態に突入します。


5.国の保障有無:保障している“安全な建物”と保障しない“安心な建物”

 「食の安全・安心」というキーワードは頻繁にマスコミに登場し、国民の関心の高さと共に、国により高いレベルで食に関して守られていることが実感できます。
 一方「建物の安全・安心」はどうかと言うと、「安全な建物」は国(の法)にて守られていますが、「安心できる建物」については、国は守ることはしておらず、保障していないため「食の安全・安心」と比較して大きな開きがあります。
 建物の「安全」と「安心」は、似て非なるものですが、その違いを認識している一般の方はほとんどいません。

 「安全な建物」とは国が建築基準法で守っている耐震性能で、大地震時には倒壊する直前で変形が留まる事を指し、人を倒壊による圧死から守るというものです。構造技術者は道具である計算プログラムを用いて、建物が倒壊するまでのシミュレーションを日々行っており、倒壊寸前で留まるのか(法に適合するのか)、倒壊してしまうのか(不適合なのか)を確認しながら設計をすすめます。
 法が守る耐震性能では、建物の損壊がひどく補修するよりは建て直しの方が安くつくと言ったこともあるため、資産価値を守ることにはなっていません。
 つまり「安全な建物」の“安全”とは、命だけは守ると言う意味での“安全”です。

 一方「安心な建物」とは、大地震時でも損傷が無く、資産を守ることができる性能です。免震構造の建物がこの性能にあたります。つまり、命だけでなく資産までも守るため、地震直後も“安心して生活できる”と言う意味の“安心”です。
国が法で守っている「安全な建物」と、なんら保障していない「安心な建物」との性能の差は、なんと5倍(*2)もあります。今回の法の改正は、1倍を下回る事の無いように規制強化されましたが、1倍を少しでも超えるならそれ以上の性能は、国は強制力をもって関知することはせず民間の売り手と買い手の判断に委ねています。

 性能が1倍の「安全な建物」と5倍もある「安心な建物」とのマンション価格はどれだけの差があるかというと、現在ほぼ同額に近いと言われています。それにも関わらず「安心な建物」が増えないというおかしな現象がありますのは何ゆえでしょうか?
 このおかしな現象の原因こそが、偽装事件が発生した社会的背景に繋がるところです。


6.性能の向上:耐震偽装事件の社会的背景とそこからの決別

 偽装防止策のもと打ち出した今回の新法により、こんどこそ絶対に安心できる建物になったと国民に植え付けているため、今まで以上に価格の安いものを求める方向に走り始めました。国民の関心は価格の安さであり、相変わらず設計の現場では「経済設計がやはり優先だ!」と。耐震偽装事件の社会的背景に変化がありません。
 これは設計現場が悪いのではなく、国交省が安全だけでなく安心までも国が保障しているかのように伝えていることに起因しています。

 もし国民に対して、「生命を守る耐震性能は保障しているが、資産価値を守るほどの性能は保障をしていない。それゆえマンションの耐震性能は自己責任のもとで購入すること」と伝えるなら、建物の性能に対して関心をもち、マンション販売員に耐震性能を問うことになりましょう。
 これは何を意味するかと言うと、建主や設計現場において「経済設計をしろ!」という言葉が、「性能の高いものを作れ!」と変わることを意味します。
 これで建物の性能への考えは一変し、国が必死に守ろうとしている最低性能から離陸し性能がより向上する方向へ飛び立ちます。

 1995年の阪神淡路大震災の被害を教訓として、国交省は2000年に法の改正を行ないました。このとき“安全な建物”から“安心な建物”を目指せるように、免震構造を確認申請にて設計が出来る手法を確立し運用を始めました。さらに2005年の告示にて制振構造という性能の高い建物をも造り易くすべく新検証法の計算手法を発表しました。
 これらの法改正は、より性能を向上させようとするもので、新たなる舵を大きく切ろうとした画期的なものでもありました。 

 ところが、それから幾年も経たないこの度の法改正で“安心な建物”となる免震構造の設計を出来なくしてしまいました。(*3)さらに制振構造も含め前向きで性能を向上させる道に封印をしてしまうという、時代に逆行する舵取りをしてしまったのは、行き過ぎで大きな誤りをしているといえます。

 性能を向上させる道は、高い性能が担保となりミスが存在しても法を犯す結果にならないため、偽装防止策に直結します。
 そしてこの前向きな動きは、性能が高いため審査の2重チェックも簡素化でき、耐震技術の更なる向上も期待できるため、国が関知しなくとも民・民(売る側と買う側)のもとで低価格で安心できる建物性能の構築へと繋がるものでした。
 “住民が安心できる建物“を目指していく先にこそ、最大の偽装防止策が存在すると言えましょう。しかし、新法は、性能向上への道までも閉ざしてしまいました。


7.プログラムの大臣認定制度:“魔法の杖”は“悪法か善法か”

 最近、確認審査等の停滞が社会問題になりつつあるため「大臣認定プログラム」の投入が望まれています。その理由はこのプログラムにて出力された計算書は審査期間を短縮できるとうたわれており、停滞の解消に繋がる魔法の杖と期待されているからです。

 しかし、大臣認定プログラムによる計算書に対して、審査期間の短縮は危険な運用となるため問題があります。大臣認定プログラムを使うと審査期間が70日から35日に短縮できると解釈されています。つまり現在始まっている審査と比較して半分の審査を省略してよいというものです。半分の審査を省略したら危険きわまりないわけで、審査の何が省略できて、省略しても危険にならないという保障(担保)は何によるのかを示されないままの運用ですから、審査の省略をした分だけ危険になります。

 「大臣認定プログラム」の場合は、審査側でも同じプログラムを使用して“再計算”することで偽装を見抜くことを義務付けています。しかし、少なく見積もった重量データや入力ミスは“再計算”でその違いを識別することはできませんから、適合性判定員が計算結果を見て工学的判断をすることで発見されます。この判定員による審査を半分近く省略したのでは、折角の新法もザル法になってしまい問題が発生します。ここで恐いのは問題が起こった時の責任は入力ミスをした人や審査にて見逃しをした人に厳罰が下り幕を閉じるだけでなく、問題が起こったマンションの住民は泣き寝入りすることになってしまうことです。

 新法の鉄壁な偽装防止策に対して、わざわざ風穴をあけ無法化する必要がなく、審査の省略を目的とした大臣認定制度は偽装防止策にそぐわないものです。それをあえて国交大臣名で投入するなら、問題が生じた場合は大臣が責任をもち、住民に変わってマンションを保障することでなければ、話が完結しません。 
 国交大臣が責任を持てないなら、審査の省略をする運用は危険なため止めるべきものであり、結果として住民が犠牲者となるシステムは運用すべきではありません。

 ここまでの話は現実に起こりうるものですが、私は上記の運用は法を誤って解釈していると思っています。
 つまり大臣認定プログラムに対する法の定義は、特定された出力部分の省略が出来、その省略されたところは審査の省略ができるというものです。ところが新法における大臣認定プログラムの出力仕様によると、省略する出力部分は無いとして特定されませんでしたので審査の省略もする箇所がないと解釈するのが適切です。よって審査の省略ができないため審査期間の短縮という特典も審査料金が安くなることも誤った運用となります。

 ここで一般の方が心配するのは、大臣認定プログラムが無くなると、改ざん防止機能などの必要な機能が無くなってしまうのではということですが、その心配はいりません。
企業には知恵があり、企業努力と市場原理という競争の中で市場が求めるものは即組み込まれるのが常です。
 現時点のプログラムでもほぼその辺は組み込まれ進化を続けています。
プログラムは生き物のため、国が規制をかけ身動きが出来ないようにすることの方が恐く、それでは使い物にならないプログラムとなってしまいます。

 事件が起こるとまず規制をかけることから始まりますが、重要なことはその制度が「国民のための制度になっているか?」ということではないでしょうか。


8.審査料金と経営問題:“民間審査機関”と“公共審査機関”の将来像

 審査料金については、基本料金に対してオプションにより審査料金が上がる体系がふさわしいと考えます。つまり審査に要する時間とそれに見合った料金はプログラムの種類(認定・非認定)で変わるのではなく、建物の複雑さや特異性に依存して変化します。これだけで審査時間が倍・半分になることもあります。今回の料金体系ではその辺を加味した料金変化はなく、また民間も公共も同一の料金にならざるを得ないシステムが作られています。これでは民間審査機関の経営上の問題が発生します。民間と公共機関が同じ審査業務をするという前例のないシステム自体に無理があるように思います。民間審査機関と公共審査機関の分業化は必要で、特定行政庁は検査業務のみとする等、明確に役割分担をする必要があります。

 このように審査機関という基盤が安定的ではありませんが、建物の性能を向上する方向に向かうなら、法を犯す確率はより小さくなるため、厳格で非効率な審査を緩和したり簡素化したシステムに変えることもできます。この点も含めさらに踏み込んだ審査機関の将来像を法により明確にして頂きたいと考えます。また、審査料金表は大臣認定プログラムの取扱いも含め、適切な料金体系に見直す必要があります。


9.まとめ:“住民のための法改正”へ

 性悪説に基づく法の改正は、結局のところ住民が安心して住める建物にはならないようです。厳格・厳正なる審査も、一方では審査の省略を目的とする大臣認定プログラムの導入では偽装防止になりません。さらに性能向上をやめてしまっては、誰のための法の改正なのか?と怒りに近いものを感じます。

 ここでは、基本的なところでボタンの掛け違いをしているものの、少しの改善で悪法が善法に変わるため、住民が安心して生活できるための次の改善をして頂きたいと願います。

@停滞の解消(その1):三人寄れば文殊の知恵・権限委譲へ
 判定員(構造計算適合性判定員)の回答は、全国統一された回答でないといけないとの制約は、様々な点で無理があり良いシステムになりません。技術基準解説書を超える範囲のものは、判定員2人と構造設計者の3人でより安全なる知恵を出し問題解決に当たるという、権限委譲を審査現場に委ねる方法を採用して頂きたい。この採用は審査する側、される側両者にとって最大の教育・育成の場にもなります。(詳細は4.項参照)

A停滞の解消(その2):構造技術者を育て数を増やす方向に
 構造技術者の足切りに主眼をおいたものとなっていますが、急激な足切りは技術者の絶対数が足りなくなり、更なる停滞を招きます。よって、足切りではなく、技術者をどう育てるか、若い構造志願者をどう増やすか、といった育成の方に力を入れて頂きたい。(詳細は4.項参照)

B停滞の解消(その3):マンションの性能に応じた審査のあり方へ
 厳格・厳正なる審査は当然としながらも、審査に予想以上の手間がかかり停滞するようなら現実的でありません。建物の性能に余裕があるかどうかを鑑み、余裕が大きいなら審査内容の軽減ができる方法とし判定員にまかせて頂きたい。また、性能に関する問題は建設後に所有者が変わる分譲マンションにおいて起こるため、マンション以外の建物については、性能の余裕に関係なく審査内容の軽減ができる運用をして頂きたい。

C性能向上(その1):国が守るもの、自己責任のものを明確に
 国交大臣やマスコミにより、国民に対して国が守って保障している部分と、保障できない部分を知らせることによって、住民の自己責任の範囲を認識させ建物の性能に関心をもたせて頂きたい。(詳細は6.項参照)

D性能向上(その2):“安心な建物”が容易に作れるように
 性能が高く“安心な建物”である免震構造の建物が出来なくなっているので、従来のように確認申請と適合性判定機関のルートで検査・審査が出来るようにして頂きたい。(*3)(詳細は5.〜6.項参照)

E性能向上(その3):確認申請ができる新検証法の導入計画
 法で定めた耐震性能を1倍とするなら、免震構造の性能はその5倍、さらにその中間を埋める性能となる制振構造も選択肢の一つに出来ることはもとより、さらなる新検証法の導入が可能なようにして頂きたい。(詳細は6.項参照)

F大臣認定プログラムの危険な運用は不要
 新法に則って改良されたプログラムは、各プログラムメーカーにより既に出荷され出揃いました。今回は法により詳細にプログラムの仕様が規定されましたため、その仕様に準じたものとなっています。各メーカーの新しいプログラムは、何度も旧の大臣認定を取得して改良を重ねて20年以上の実績があり、改ざん防止機能も施しているため非認定プログラムの運用で充分なものです。さらに追加仕様があるならそれを示すだけで組み込まれます。プログラムの大臣認定制度における特典は、非認定プログラムの存在を否定することにもつながり、プログラムの健全なる発展に影響し、技術の衰退をも招く意味でもよくありません。新法の偽装防止策は、偽装だけでなく、簡単なミスも見逃さないシステムが出来ました。ゆえに、この鉄壁なシステムを無法化する大臣認定プログラムの運用こそ危険なため、新法において運用する必要性がありません。(詳細は7.項参照)

G審査料金の見直しと審査機関の方向性
 大臣認定プログラムにのみ値引きの特典を不当に与えるのは止めて頂きたい。
 審査料金は運用実態を把握する前に決められたため、審査時間に連動する健全なる料金体系に見直して頂きたい。
 民間審査機関と公共審査機関が同一業務をするのは無理があるため、役割分担を明確にした分業化をはかり将来像を明確にして頂きたい。(詳細は8.項参照)

以上。

株式会社 構造ソフト
代表取締役 星 睦廣






 専門家に対する補足説明を以下に示します。

注釈 *1: 4.項における「…技術の推定を招くことになります。(*1)」に対する注釈
 国交省のQ&Aによると、「学会のRC規準等に規定された式を用いる場合には、規定された適用範囲などの条件を守る必要がある。」とあり、日本建築センターにおいては、このQ&Aに照らし合わせると、「RC規準では2軸曲げの検定は記述が無く適用範囲外となる」との見解を示した。しかし、弊社が応力の立体解析をして、2軸曲げの検定計算を採用したのは今から20年近く前のことであり、その後各ソフトメーカーも同様な方法を採用し、今まで当たり前に運用されてきたことです。この解釈をさらに進めると、平面的に15度を超える傾きがある場合は、立体解析プログラムを採用してはいけないという話になりそうです。
 同様に高強度鉄筋のSD490についてもRC規準には記載が無いので使えないとの解釈。ただ日本建築学会はSD490の記述等も含めRC規準の改訂準備を進めているとのことですが…。
 この事例のように、法の解釈にて厳格に運用しようとすると、日本建築センターの見解は当然の帰結でなんらも間違っていないと言えます。しかし立体解析は駄目、傾斜が15度を超えたら駄目と際限なくルールに照らして決められたものが、大変非効率なもので、計算精度も悪く、結果として誰も得をとることがなく、社会的な損失だけが残ることにもなります。それを“法のルールなのだから従ってくれ”との不合理な運用は正しいとは思えません。杓子定規な運用よりは人間の賢明なる知恵でここは乗り越えるシステムとしたいものです。

注釈 *2: 5.項における「安心な建物との性能の差は、なんと5倍(*2)もあります。」に対する注釈
 性能を示すときの定義は定められていませんが、一般の方に説明する上では、わかりやすい性能の示し方は有用です。
 法が定めた建物性能は、中地震時に建物が損傷しないこと。
 一方免震構造においては、大地震時に建物が損傷しないことと定められています。中地震時と大地震時では、地震のエネルギーが5倍違います。5倍の地震エネルギーに対して建物の損傷は同じですから、一般の建物と免震構造では、性能が5倍違うと定義しました。

注釈 *3: 6.項における「免震構造の設計を出来なくしてしまいました。(*3)」に対する注釈(9.項のまとめDも同様)
 平成12年告示 第1457号第10 2項の条文を改正したところの問題で、これによると所有地の範囲を超えた広範囲に渡る地盤調査をする必要があり、実際問題として調査が不可能となっている。ゆえにこの告示文が入ると免震構造を作ってはいけないと規制したに等しくなる。そこで性能の高い免震構造が建てられるように、平成12年告示 第1457号第10 2項を運用し易い記述に緩和して頂きたい。
 同様にエネルギー法による制振構造の建物や、法の最低基準よりも高い性能のところで利用するときに限り限界耐力計算も使えるような法の体系にして頂きたい。


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