中沢: |
「島課長、おかげさまで地震力についてかなり明確にわかってきました。これからは地震応答解析のソフトを使って実際に数値実験をやりたいと思うんですが・・・。」 |
島課長: |
「そうだねぇ、興味深い例があるな。加速度地震波を基準化して、建物に作用した場合と、速度で基準化した場合での数値実験の違いについてだけど・・・。」 |
中沢: |
「島課長、ちょっと待ってください。まったくちんぷんかんぷんです。
まず『基準化する』ということがわかりません。」 |
島課長: |
「そうか、例えば、加速度地震波を500ガルで基準化する、ということは最大加速度値が500ガルとなるように波形の大きさを比例的に増減することだ。
例えばOSAKA-205 という加速度地震波がある。」
「これの最大加速度は25ガル、この波形を最大加速度500ガルまで増加する
ためには、現波形の振幅値を全て比例的に20倍すればよい。このように、目標の最大値になるように、現波形を比例的に増減することを
基準化するというんだ。速度で基準化するということも、同様にすればよいわけだ。」
「先程のOSAKA-205の最大速度は5カインなんだが、これを例えば50カインに基準化するということは10倍すればよいということがわかるね。」 |
中沢: |
「速度波形を10倍するんですね。」 |
島課長: |
「速度波形は必要ないんだ。」 |
中沢: |
「えっ!速度波形はいらないんですか。てっきり速度で基準化するとは、速度波形を比例的に増減して、その速度波形を建物に作用すると思ったんですが?」 |
島課長: |
「いやいやそれは違うよ。あくまでも応答解析するための入力地震波は加速度波形だ。加速度波形を10倍して建物に作用させるってわけよ。」 |
中沢: |
「なるほど、速度で基準化してその倍率を求め、その倍率を加速度波形に掛けるわけですね。こんな面倒なことをするのは、なぜですか?」 |
島課長: |
「この表を見てごらん。これは、各地の地震波の最大加速度と最大速度を表したものだ。」
地震名 |
最大加速度
ガル(p/s2) |
最大速度
カイン(p/s) |
EL CENTRO 1940 NS |
341.70 |
33.45 |
EL CENTRO 1940 EW |
210.14 |
36.92 |
TAFT 1952 NS |
152.70 |
15.72 |
TAFT 1952 EW |
175.95 |
17.71 |
TOKYO-101 1956 NS |
74.00 |
7.63 |
SENDAI-501 1962 NS |
57.50 |
3.46 |
OSAKA-205 1963 EW |
25.00 |
5.08 |
HACHINOHE 1968 NS |
225.00 |
34.08 |
HACHINOHE 1968 EW |
182.90 |
35.81 |
THO30-1FL 1978 EW |
202.57 |
27.57 |
|
|
「この表からわかるように、最大加速度と最大速度は比例関係がないわけだ。」 |
中沢: |
「でも課長、EL CENTRO、TAFT、TOKYO-101などは最大加速度と最大速度は1/10
に近い関係ですね。」 |
島課長: |
「よく気づいたね。加速度と速度は比例関係はないが、ただ一つの目安として1/10の関係の地震波も多くある、ということを覚えておくのは何かと役に立つね。」 |
中沢: |
「基準化するということはよくわかりました。それでは話しを戻しまして、先程の話しで、数値実験でおもしろい結果が出たと言っていましたね。それについて教えて下さい。」 |
島課長: |
「それでは、その数値実験について説明しよう。ある最大加速度で基準化した地震波(EL
CENTRO、TAFT、TOKYO-101等々)
をたくさん用意して、ある建物にそれらの波をそれぞれ作用させてみたんだ。すると、建物の応答値(最大応答加速度、最大せん断力、最大変位等)にバラ
ツキが大きく生じた。それぞれの地震波の最大加速度をある値に基準化して統一したにもかかわらず、地震波により応答値がバラバラだったと言うわけだ。」 |
中沢: |
「でも課長、たとえ最大加速度を同じにしても、地震波が違っていれば、応答値もバラバラになっても不思議はないと思いますがそうではないんですか?」 |
島課長: |
「厳密に言えば、中沢君の言うとおりだ。ここでは統計的な視点に立った話しと
して聞いてくれ。次に、ある速度値に基準化した場合はどうか?ということで行ってみたら、それは大変おもしろい結果が出たんだ。」 |
中沢: |
「どっ!どうなったんですか?」 |
島課長: |
「動的解析時の応答値に地震波ごとのバラツキが少なかったんだ。」 |
中沢: |
「えっ!速度で基準化したら、応答値において各地震波ごとのバラツキが少なかったということですか。」 |
島課長: |
「そういうことだね。加速度で基準化した場合は、応答にバラツキが生じ、速度で基準化した場合は応答にバラツキが少なかったということは、何を意味して
いるかだ。」 |
中沢: |
「前回教えてくれた、地震の持つエネルギーとか強さというものに関係してくる
わけですね。簡単に言ってしまうと、地震波が与える建物への影響力とは、入力加速度の大小よりは、速度の大小に比例するということですね。」 |
島課長: |
「一言で言うなら、そういうことかな」 |
中沢: |
「非常に良くわかった気がします。速度の大きさが大事なんですね。
ところで阪神大震災は、どのくらい大きな速度だったんですか?」 |
島課長: |
「800ガルを超える加速度地震波を積分して速度波形を求めたら、最大速度は90カインあったと言われているね。」 |
中沢: |
「ところで、90カインとは大きいんですか、小さいんですか?」 |
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(星 睦廣) |