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■地震動応答解析のおはなし
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第6話 「レベル1・レベル2の地震動」


中沢: 「島課長!地震波で最大速度が90カインというのは、大きいんですか、小さい んですか?」
島課長: 「たいへん大きな地震力だね。」
中沢: 「どのくらい大きいんですか? 例えば、通常の建物を構造設計するときに、中地震を想定した一次設計時は、標準せん断力係数が0.2、大地震の二次設計時は、標準せん断力係数が1.0として設計していますね。地震応答解析するときには、どのような地震力を想定しているんですか?」
島課長: 「同じように2つの段階に分けているね。呼び方は違って、レベル1、レベル2 と呼んでいるんだ。」
中沢: 「なるほど、これらレベル1、レベル2が一次設計及び二次設計に対応するんで すね。」
島課長: 「まぁ、そんなとこだが、ちょっとニュアンスが違うね。 一次設計、二次設計は設計手法全般を指しているのに対して、レベル1やレベル2は正確に言うと『レベル1の地震動』『レベル2の地震動』と呼び、地震動の強さを指しているんだ。」
中沢: 「地震動の強さとは、レベル1では中地震時、レベル2では大地震時のことを指すと考えて良いんですか?」
島課長: 「そのとおりだね。」
中沢: 「具体的に言うと、どのくらいの大きさになるわけですか?」
島課長: 「正確に言うなら次のようになるね。」
『レベル1の地震動とは、当該建築物の耐用年数中に一度以上受ける可能性が大きい地震動を指し、この地震動に対して、主要構造体は概ね弾性的な挙動で応答することを目標とすること。』
『レベル2の地震動とは、当該建築物の敷地において、過去及び将来にわたって最強と考えられる地震動を指し、この地震動に対して建物は倒壊したり、ある いは外壁の脱落等の人命に損傷を与える可能性のある破損を生じないことを目標とすること。』
中沢: 「と言うことは、レベル1の地震動の強さに対しては、ひび割れが起きないように設計して、レベル2の地震動の強さに対しては、倒壊しないように設計すればよいというわけですね。」
島課長: 「まあ、そういうことだね。」
中沢: 「そうすると、一次設計や保有水平耐力の考え方と基本的には同じですね。」
島課長: 「静的に解析するか、動的に解析するかの違いはあっても、構造設計する際に関 してのスタンスは同じと考えて良いね。」
中沢: 「それを聞いて安心しました。 難しいと思っていたんですが、意外と簡単かもしれませんね。動的解析って、なにか身近なものに感じてきましたよ。ところで、まだもやもやしているのが・・・地震動の大きさなんですが、先程の説明だと漠然としていてはっきりしませんが・・・。」
島課長: 「抽象的な表現なので、これだけではどのくらいの地震力を考えてよいかはっきりしないね。このようにはっきりしないために、当初は設計用最大速度値や加速度値が設計者によりまちまちだったことがあったわけだ。」
中沢: 「設計において、外力の評価は極めて重要ですよね。」
島課長: 「まったくだね、そこで後に、具体的な数値で示すようになったんだ。」
中沢: 「具体的な数値とはどのようなものですか?」
島課長: 「目安として、レベル1の地震動に対しては、25カイン(cm/s)以上で基準化した地震波を想定し、レベル2の地震動に対しては、50カイン以上で基準化した地震波を想定しましょうとね。」
中沢: 「なるほど!なるほど! レベル1で25カインですか、加速度に簡単に換算できないことは分かってい ますが、10倍として250ガル前後の大きさかな・・・フムフム。レベル2で50カインか・・・。ところで阪神大震災の90カインはレベル2の地震動50カインの2倍近くに なりますね。」
島課長: 「地震動応答解析で、おそらく90カインの地震動を想定しての設計はされていなかったと思うんで、想像を超える大きさではあるね。」
中沢: 「先程の課長の説明で、レベル2の地震動とは、過去及び将来にわたって最強と思われる地震動の大きさと言いましたね。とすると今後は90カインを想定することになるんですか。」
島課長: 「少なくとも神戸地区においては、90カインという速度の検討が必要になってくるだろうね。」
中沢: 「ということは、25カインや50カインは固定的なものではないということで すか?」
島課長: 「もちろんだよ。先程の話しも一つの例として打ち出した数値だね。 もう少し正確に言うなら、先程の数値の例は、支持層は東京レキ層とし、剛強な基礎構造を有する建築物での地表面における最大速度 という仮定条件がつくね。」
中沢: 「意外とその辺は、はっきりしないんですね。」
島課長: 「はっきりしないんではなくて、その辺については構造技術者にある程度の自由度を与えているんだね。構造計算家ではなく、構造設計者を対象にしているんだよ。」
中沢: 「簡単に言うとどういうことですか。」
島課長: 「まず、設計クライテリアをもつこと。すなわちこの建物をどう料理するかとい う自分自身の設計基準を明確にもつこと、そしてこのスタンスを第三者に納得させれるだけの明確な知識も有していることだね。しっかりした設計思想を話すことができるなら、20カインや40カインでも認めますよ、と言うことだよ。」
中沢: 「やっとわかった気がしたのに、急に難しく感じてしまいました。」
(星 睦廣)


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