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■地震動応答解析のおはなし
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第13話 「レベル2の目的は?(その2)」


島課長: 「層間変形角が100分の1を超えると別の問題が発生するんだ。」
中沢: 「別の問題って何ですか?」
島課長: 「P−△(ピーデルタ)効果だ!これは層間変形角が大きくなると、建物の自重による影響が無視できなくなるんだ。」
中沢: 「自重による影響とはなんですか?」
島課長: 「すなわち、次のような片持柱を考える。A図の場合には、Pという鉛直力により柱に軸力が生じるだけだ。ところがB図のように柱に大きな層間変形角があると、軸力だけでなく、柱脚にP・△という曲げモーメントが生じるのがわかるね。」
A図・B図
中沢: 「なるほど、層間変形角が増大すると、建物自重による曲げの影響が新たに発生するってわけですね。」
島課長: 「このような曲げの影響は、微小変形理論では発生しないが、大変形理論を取り入れて解析するとよくわかるんだ。」
中沢: 「大変形理論による解析はよくやられるんですか?」
島課長: 「普通はやらないね。むしろ、今のように層間変形角が大きくなると、自重による付加曲げが柱に生じてくるため、付加曲げ分だけ考慮しながら設計しなければならないと頭に入れておくんだね。そして、層間変形角が100分の1ぐらいまでの範囲なら、その影響が無視できるということもね。」
中沢: 「わかりました。これをP−△効果というんですね。」
島課長: 「さらに次の点に注意しなければならないね。レベル2の地震動に対して、当然部材は塑性化する。そこで部材が曲げに対して十分に塑性回転能力がなければならないということだ。」
中沢: 「塑性回転能力があるということは、その部材はじん性のある部材ということですね。」
島課長: 「そのとおり。」
中沢: 「ちょっと話が変わりますが、耐震診断をするときにじん性指標(F)が出てきますが、あのF値の大きさのことですね。」
島課長: 「そうなんだ。耐震診断の場合は、塑性回転能力の大小をF(じん性指標)で表している。そして建物の保有耐力を層せん断力に相当するC(強度指標)と塑性回転能力に相当するF(じん性指標)とを掛けたエネルギーの大きさで評価しているね。」
中沢: 「新耐震設計法では、図Cのように保有する層せん断力の大きさのみで、その層を評価していますね。耐震診断のようにエネルギーに対する評価をしていないのはなぜですか?」
C図
島課長: 「それは、必要保有水平耐力のほうで評価しているんだ。」
中沢: 「Ds値での評価ですか?」
島課長: 「そうだね。もっと詳しく言うなら、各部材の種別(FA〜FD)が塑性回転能力を示していると考えて良いね。」
中沢: 「なるほど、部材の種別とはそのような意味があるのですか。」
島課長: 「さて話を戻すと、S造やSRC造は一般的には十分な塑性回転能力があるので大きく問題とはならないが、RC造の場合は部材が塑性化した後どのくらい変形が増大したかを認識しておかなければならないんだ。」
中沢: 「それは変位の大きさで見るんですか?」
島課長: 「いや、塑性回転能力に対してどの位置にあるかということなので、部材の塑性率で見ることになるね。」
中沢: 「まだ漠然としていますが?」
島課長: 「それでは順を追って説明しよう。まず静的な弾塑性解析をして、ある層が100分の1(から75分の1)の層間変形角をもったところで増分解析を終了してみる。(D図参照)この時の各部材の塑性率を十分認識する必要があるんだ。」
D図
中沢: 「部材の塑性率を出力してくれるソフトと、その塑性率の値がどのくらいになるか教えてください。」
島課長: 「ソフトはBUILD.DD1がコンクリートのひび割れ剛性を考慮しながら各部材の塑性率も出力してくれるね。そして、100分の1の層間変形角だと部材の塑性率は2〜3ぐらいの値になるが、各部材はその塑性率を満足できる設計が必要だね。」
中沢: 「具体的にいうとどういうことですか。」
島課長: 「塑性率が4程度の部材がある場合には、その部材が十分な塑性回転能力を出せるように、例えば新耐震設計法でいうFAランクの部材を目指して設計するとかだね。」
中沢: 「なるほど、そこで部材種別がでてくるわけですね。最後にもう一つ質問させて下さい。今の話は静的解析の話ですね。動的解析とどうつながるんですか?」
島課長: 「まず、話は最初に戻ることになるんだけど、レベル2の地震動に対して層間変形角を100分の1以内にするという設計クライテリアをもつということは、動的解析した結果も、最終的にはその部材の応答におさめるわけなんだ。」
「また同様に静的解析でも最大100分の1に達したときの塑性率や部材の種別について検討しているので、視点が違うだけで同じ状態のときの検討をしていることになるんだ。」
中沢: 「よくわかりました。」
(星 睦廣)


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