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■地震動応答解析のおはなし
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第18話 「減衰について(その1)」


中沢: 「振動方程式の中には減衰に関する項がありますが、減衰というと、感覚的にはわかるんですが、どうも・・・。」
島課長: 「中沢君!振動方程式の中に減衰の項がなかったらわかり易いのに、と思っているのではないか?」
中沢: 「そうなんですよ。減衰の項を無視しても安全側の結果が得られるなら、簡単なのにと思ったんですよ。」
島課長: 「減衰は無視してよい程小さなものでないね。いや、むしろ今後は増々重要になるので、よく理解しておく必要があるね。」
中沢: 「減衰って、そんなに重要なんですか?」
島課長: 「もちろん!もちろん!大変重要だね。」
中沢: 「例えば、減衰定数3%等と言いますね。」
島課長: 「RC造の場合にその値を使うね。」
中沢: 「先日、BUILD.DD2000(弾塑性振動解析プログラム)を使って、どのくらい減衰するかやってみたんですよ。この図における入力加速度は、ある加速度を最初に△t時間だけ加え、その後はゼロとした衝撃波を作用させました。すなわち自由振動させて、その減衰を見たんですよ。」
変位応答時刻歴図
衝撃波を作用
島課長: 「どうだったかね。」
中沢: 「よくわからないんですが、振幅がだんだんと小さくなっているのはわかりますね。」
島課長: 「変位応答の振幅の減衰のしかたは、3%の減衰の場合、一周期で振幅比が約83%になるくらい減衰するんだ。」
中沢: 「ということは、振幅が17%ぐらい小さくなるということですね。」
島課長: 「そういうことだね。5%の減衰の場合は、一周期ごとに振幅比が73%ぐらいになるね。」
中沢: 「建物により固有周期がそれぞれ異なりますが・・・。固有周期の大小に関係なく一周期ごとに先程の比率で振幅が減少するということですか?」
島課長: 「そういうことだね。さて、この応答図から動的解析の特徴を述べてみよう。まず第一点は、力(衝撃波)として作用したのは最初の△t秒間だけで、その後の時間帯では力を作用していないってことだ。ところが、力が作用していないときでも、振動しているから変形が生じているということが静的解析との大きな違いだね。」
中沢: 「静的(弾性)解析は、力と変形が比例する。当然、力がなければ変形もなしってことですね。」
島課長: 「そう。もう一つは、その力(衝撃波)の影響は時間とともに(一周期ごとに)小さくなっていくということだ。もちろんこの現象は減衰がもたらすものだけどね。」
中沢: 「それでは振動解析のソフトを用いて、例題をつくって減衰の影響をシミュレーションしてみたいとおもいます。」
−−−−−そして、数時間後−−−−−
中沢: 「島課長!減衰の影響が大変大きいことがわかりましたよ・・・。 」
「まず5階建(5質点)の建物を想定し、EL CENTROの地震波を入力し、建物の減衰定数を0%のときと5%のときで、応答結果を比較しました。」
島課長: 「・・・。」
中沢: 「すると、減衰0%の最大応答値に対して、減衰が5%のときは、加速度応答、変位応答共、最大値が40%以下の応答値に減少しました。」
島課長: 「中沢君は、減衰定数の違いにより、応答値がどのように変わるかを調べたかったわけだね。」
中沢: 「そうなんですよ。」
島課長: 「とするならば、そう単純には言えないね。」
「例えば、減衰と応答との関係は、応答スペクトルと言う図で表されるんだ。この図は、ある固有周期をもつ建物(X軸)が、○△波の地震波を受けたときに、どのような最大応答値(Y軸)を示すかを減衰定数をパラメータにしてプロットしたものなんだ。」
応答スペクトル図
中沢: 「応答スペクトルは、振動の本にはよく載っていますね。」
島課長: 「そうなんだ。まず減衰によってどのように応答が変わるかを、この図は示しているわけだが、どうだろうか。この図からもわかるように、一概には言えないってことが理解できますか?」
中沢: 「そうですね。固有周期により応答の差はバラバラですね。」
島課長: 「この図は○△波の地震動の場合で、当然別の異なる地震波を入力すれば、この応答スペクトルも異なった図を描くことになるんだ。」
中沢: 「ということは、私のやったシミュレーションは、ある特定の値ということになりますか?」
島課長: 「そう考えることが大事だね。振動解析の場合、入力地震波が異なれば当然応答値も異なるし、また固有周期に関係する建物の剛性評価が違えば、応答結果にも影響するわけだ。」
中沢: 「以前の話で、評定※1物件などは3波以上の地震波で検討することとありましたね。」
島課長: 「もちろん、特性の異なる3波以上ということだけどね。また免震構造の場合には、建設地域の地盤特性を考慮した模擬地震波を用いて検討する必要もあるね。いづれにしても、一波だけの結果で建物の挙動について判断してはいけないってことを知っておくことだね。」
中沢: 「よくわかりました。ところで島課長!先程減衰は大変重要なんだと述べていましたが、今までの話の他に何かもっと深いわけがありますか?」
島課長: 「少し話を整理しないといけないね。先程の減衰定数5%というのは、内部減衰のことを指すんだ。その他に履歴減衰や逸散減衰があるんだ。」
中沢: 「突然いろいろな減衰がでてくると、何かビビってしまいますね。ところで、内部減衰とは、どのような現象によるものですか?」
島課長: 「簡単な例で言うなら、バネに小さな重りをつけて、少し引っ張って離したらどうなるかね。」
簡単な例
中沢: 「当然振動し、しばらくすると静止しますね。」
島課長: 「そういうことだね。永久に振動したりはしない。すなわち、そこには今まで話していた減衰が生じているってわけだ。この減衰は、バネの材料内部の分子間摩擦によるものなんだ。」
中沢: 「振動エネルギーが摩擦による熱エネルギーに変わったというわけですね。」
島課長: 「そういうことだね。これと同じことが建物の躯体内部でも起こっているわけだ。内部減衰と呼んだり、粘性減衰とも言ったりするね。」
中沢: 「その他の減衰として、先程は何減衰と言いましたか?」
島課長: 「履歴減衰だね。」
中沢: 「そう、その履歴減衰ってどういうことですか?」
島課長: 「この減衰は、今後免震構造や制振構造をやる上では、大変重要な要素となってくるんだ。」
中沢: 「免震や制振って聞くと、何かゾクゾクするんですよ。ところで、どのように重要なんですか?」
(星 睦廣)

1 この記事は1996年に書かれたものです。現在、大臣の認定を受けるために必要な日本建築センターでの事前審査のことは性能評価と呼びます。


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