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■地震動応答解析のおはなし
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第20話 「減衰について(その3)」


中沢: 「履歴減衰と免震構造とはどのような関係があるんですか?」
島課長: 「免震層には積層ゴム(アイソレータ)が配置されるため、変形量が大きくなる。そこで少しでも応答量を小さくするために、ダンパー効果は欠かせないんだ。」
中沢: 「しかし、ゴムと言うと弾性的挙動をイメージし、先程の履歴減衰のようなダンパー効果は期待できないように思えるんですが・・・?」
島課長: 「そうだね。ゴムそのものは履歴ループをほとんど描かないんだ。ここでいうゴムとは天然ゴムのことを指しているんだ。」
中沢: 「履歴ループをほとんど描かないとすると、ダンパー材を別に配置して、減衰を得ることになるわけですね。」
島課長: 「その通りだね。天然ゴム系免震ゴムは各種ダンパーと組み合わせて用いるんだ。ダンパーとして最もわかり易いものに鋼棒ダンパーがあるね。」
中沢: 「鉄筋のようなものですか?」
島課長: 「鉄筋を太くした特殊鋼棒で、直径が30o〜150oのようなものだね。」
中沢: 「鉄筋の両端を上下階で固定すればよいわけですか?」
島課長: 「そのとおりだね。ちょっと注意が必要な点は、水平変位が大きいので、その変形に追随できるように固定部分の設計がされているけどね。」
中沢: 「当然、この鋼棒は、水平変位に対して塑性化して、履歴ループを描くわけですよね。」
島課長: 「もちろん!水平変位に対してどの方向にもバイリニア型の復元力特性を示すため、大きな履歴減衰が得られるんだ。」
中沢: 「なるほど。鋼棒ダンパーはとっても分かり易いですね。」
島課長: 「鋼棒ダンパーはどこにでも簡単な装置で取り付けられるし、値段も安いし、扱い易いってわけなんだ。それゆえゼネコン各社では、必ずと言っていい程、免震構造の開発メニューの中に加えられているんだ。また、このようなダンパー設置を不要にできるものも開発されているね。例えば、先程の鋼棒ダンパーのかわりに鉛材を用い、天然ゴムと一体化した鉛プラグ入り積層ゴム(図1)とか、高減衰積層ゴム等も開発されているね。」
図1
中沢: 「高減衰積層ゴムとは、名前のとおりゴム自身に高い減衰性能があるわけですね。」
島課長: 「そう。これは天然ゴムに粘性材に相当するものを特種配合して、減衰機能を発揮させたんだ。図1の鉛プラグ部分がないだけのもので、復元力特性は図2のようになるね。」
図2
中沢: 「積層ゴムが図2のように履歴ループを描くということは、ゴムが塑性化してしまったのでしょうか?」
島課長: 「図2の履歴ループの範囲内では塑性化はしていないんだ。あくまでもゴムは弾性挙動をしているんだ。」
中沢: 「・・・?? 履歴ループを描きながらも、弾性挙動であるということが、あまり理解できないのですが?」
島課長: 「わかり易くイメージで表現するなら、こうなるね。例えば、セーターを引張ると伸びるし、離すともとに戻る。この毛糸は弾性挙動を示すゴム分子の組織体のようなものだ、と考えてほしい。そして毛糸と毛糸のすきまに粘性体をからませる。これにより引張って離してもすぐには戻らない粘性減衰的挙動を示すわけだ。しかし、毛糸そのものはあくまでも弾性挙動をしているってわけだ。また毛糸と毛糸がこすれるために摩擦が生じるね。これも減衰量として寄与するから、高減衰ゴムの履歴はこれら全部が複合した形で現れるんだ。」
中沢: 「なるほど、履歴ループを描いても塑性化したわけではないということですね。」
島課長: 「そう。もう少し説明を加えると、高減衰積層ゴムのせん断応力・歪特性図は次のようになるんだ(図3)。ここで弾性的挙動としては、せん断ひずみが200%〜250%になるまで大丈夫なんだ。その後除々に歪硬化を起こして、最後は約400%〜450%で破断するんだ。」
図3
中沢: 「なるほど、せん断歪が250%になるまでは弾性状態なんですね。やはりゴムは伸びますね。」
島課長: 「そう、この250%が大事な数値なんだ。」
中沢: 「どういうことですか?」
島課長: 「積層ゴムが許容できる水平変位の限界がこれよりわかるんだ。例えば、ゴム総厚が16cmとすると、この値に250%を乗じることにより約40cmとなる。これが線形限界水平変位で、積層ゴムの設計変位となるわけだ。」
中沢: 「ここで言うゴム総厚とは、鋼板の厚さは含まないわけですね。」
島課長: 「もちろんそうだね。(ゴム総数)×(一層分のゴム厚さ)となるね。」
中沢: 「250%は固定的に覚えててよいですか?」
島課長: 「硬質のゴムはこれより小さくなるので、一つの目安として覚えておくことだね。」
中沢: 「ところで、高減衰積層ゴムはどのくらいの履歴減衰をもつわけですか。」
島課長: 「等価粘性減衰定数(heq)で15%以上になるね。」
中沢: 「15%を超えるんですか。履歴減衰って大きいんですね。」
島課長: 「少し補足説明をしないといけないんだが・・・。以前に(第19話)履歴ループによる損失エネルギーについて話したけど、積層ゴムの水平変形が大きくなれば履歴ループも大きくなり、損失エネルギーも大きくなるわけだ。そこで等価粘性減衰定数も変わる・・・。」
中沢: 「なるほど。減衰定数は一定ではなく、履歴ループの大きさにより変わるというわけですね。」
島課長: 「そう言うことなんだ。そこで考えておくべきことは、どの変形量(せん断歪量)のときの等価粘性減衰定数を用いるか、ということになる。例えば、レベル2の地震動に対して、免震層のせん断歪が最大で200%を示したとすると、せん断歪を100%のところの等価粘性減衰定数を考えてみる。」
中沢: 「200%でなく100%にした意味はなんですか?」
島課長: 「最大値は一瞬のできごとで、応答の支配的部分は、それより小さなところにあるとの考えだ。いづれにしても、構造設計者は常にこれらのことを意識する必要があるということなんだ。」
中沢: 「今までのように、全ての数値が与えられ提示されるのではなく、構造技術者が自身のスタンスとして、意識していなさいと言うことですね。」
島課長: 「そのとおりだね。」
中沢: 「よくわかりました。RC構造の内部減衰3%等の値は、この履歴減衰から較べたら大変小さいことになりますね。」
島課長: 「そうだね。ところで、免震層における内部減衰定数の考え方だけど、通常は0%と考えているんだ。考慮するのは履歴減衰のみと言うことを覚えておくといいね。」
中沢: 「はい。わかりました・・・。」
(星 睦廣)


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