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■地震動応答解析のおはなし
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第24話 「むち振り現象」


中沢: 「地盤のモデル化について、概略はわかりましたが、奥が深いこともわかってきました。」
島課長: 「振動解析する上で、一番悩むのが地盤のところかもしれないね。」
中沢: 「そこで、ちょっと質問があります。地盤と建物の件で、大変単純な質問をしますが教えてください。」
島課長: 「なんだね。」
中沢: 「建物の1次固有周期は、通常の建物では0.5秒前後であると考えますと、地盤が軟弱な程、建物の1次固有周期と地盤の卓越周期とは離れていくので、共振しにくくなると思われます。」
島課長: 「それで・・・?」
中沢: 「従って、地盤が軟弱な方が一般の建物にとっては安全なようにも感じますが・・・。ところが、一般的にはそう言われていないですね。なぜですか?」
島課長: 「いろいろ理由があると思うけど、まず地盤が硬質か、軟弱地盤かで地表面での地震波が大きく変わるんだ。どう変わるかわかるかい?」
中沢: 「軟弱地盤の方が長周期成分が多くなると思います。」
島課長: 「そう、地震波の長周期成分が増幅されることになるね。さらに大事なことは、基盤からの地震波が軟弱地盤を通過して地表面に達したときは、地震波の大きさ、すなわち最大加速度が軟弱地盤の方が大きくなることだ。」
中沢: 「えっ!軟弱地盤の方が、地表面の最大加速度が大きくなるんですか? う〜ん。 あの〜。私が想像するには、地盤が柔らかいと、地盤の周期が長くなり、地表面の応答がゆっくりになるように感じますが・・・。」
島課長: 地表面の加速度は小さくなると言いたいんだね。しかし、それは逆だね。例えば、地盤を建物に置き換えて考えてみよう。図1のように剛体の建物と普通の建物があり、それらの建物に同じ地震波を入力したとすると、最上階の加速度はどうなるか、という話しと同じだね。」
図1
中沢: 「剛体の建物の場合、地震波はそのまま伝わりますから、応答加速度は、入力波と同じ加速度になりますね。」
島課長: 「そう、そして柔らかい建物は、建物固有周期が長くなり、それ以上に最上階の変形は大きくなる。よって最上階の建物の最大加速度応答は、入力地震波の最大値に対して2〜3倍以上にも増幅されるんだ。」
中沢: 「なるほど、地盤が軟弱だと言うことは、この柔らかい建物と同じように、地震波が増幅されてくる訳ですね。」
島課長: 「さらに補足説明をしてみよう。中沢君、質量分布が均一で剛性分布も均一な地盤のモード形は、図2における(a)と(b)のどちらになると思うかね。」
図2
中沢: 「(b)のモード形だと思います。」
島課長: 「細長い棒のように曲げ型モデルの場合は(b)のモード形となるが、今は成層地盤をモデル化しているので、せん断変形型モデルを考えていることになる。」
中沢: 「せん断型モデルの場合は、(a)のモード形になるんですか?」
島課長: 「そう。(a)が正解だね。」
中沢: 「・・・。」
島課長: 「(a)は、剛性分布が均一の場合のモード形だが、同じせん断型モデルでも、上層に行くに従って剛性が小さくなるとすれば、(b)のモード形に近づくね。」
中沢: 「う〜ん!せん断型でありながら、(b)のモード形とは・・・??」
島課長: 「串団子系で分かり易く表現すると図2の(c)のようになるね。」
中沢: 「なるほど!イメージがわいてきました。」
島課長: 「さて、ここで大事なことを話すと、上層部の剛性が小さいと、モード形が最上部で大きくなり、すなわち『むち振り現象』が生じ、加速度が増大するってわけなんだ。」
中沢: 「『むち振り現象』〕ですか・・・。これは、地盤にも建物にも言えるわけですか?」
島課長: 「もちろん!もちろん!地盤の場合、成層地盤の地表面近くが柔らかい地層であると、この[むち振り現象]により、地表面加速度が増幅される。また、超高層建物でも、上層の剛性を小さくしすぎると〔むち振り現象〕が生じるんだ。従って応力的には余裕があっても、剛性を極端に落とすことはしないんだ。」
中沢: 「これは、超高層だけのことですか?」
島課長: 「一般の建物にも、同様なことが言えるね。」
中沢: 「と言うことは、最上階が応力的に余裕があるので最も安全と言うことですね。」
島課長: 「構造設計者は、そう簡単に決めつけてはいけないね。応力的には最上階は、余裕があることが多いが加速度応答は最上階が最大となる。すなわち最上階が倒壊しないと言うだけで、安全とは言えない。例えば、加速度応答が大きければ、タンスが倒れたりする。一昨年の大震災に遭遇した人は、テレビが飛んできた、と表現していたね。これまでは、建物が到壊しなければ人命は守れると考えていた。しかしこの地震では、倒壊せずとも人命が危険にされされることが分かったね。」
中沢: 「タンスの転倒については、タンスの質量にその階の最大加速度応答値を乗じることにより、容易に得られますが、これで良い訳ですね。」
島課長: 「いいね。動的解析の特徴として最大加速度応答がわかる。この加速度の大きさにより、どのくらいのものが転倒するか、イメージしておくことは大事だね。今までの静的解析ではイメージすることがなかった点だね。」
中沢: 「まったくそうですね。」
島課長: 「さて、先程の話しに戻ると、軟弱地盤の周期と建物の固有周期が離れる分だけ共振しにくくなるかどうかは、当然共振しにくくなる。しかし、軟弱地盤であるほど、基盤からの地震波は増幅されて、地表面の加速度が大きくなるので、建物応答が小さくなることはないんだ。むしろ軟弱地盤と言うフィルターにより長周期成分が増幅されるので、周期の長くなる建物にまで広範囲に影響を及ぼすことになり、かえって注意が必要になるんだ。」
中沢: 「なるほどわかりました。そうすると話しは変わりますが、免震建物の場合には、建物が長周期になるため、地盤が軟弱な場合には、共振することもありますね。」
島課長: 「免震構造は、その性質上、減衰効果を大きくもつように設計されているんだ。従って減衰効果が大きいため、両者の周期が近づいても思ったほど共振することはないね。しかし、そのような時は、細心の注意が必要になることは言うまでもないけどね。」
(星 睦廣)


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