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■地震動応答解析のおはなし
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第25話 「新しい時代と常識」


島課長: 「中沢くん、いつも遅くまでやっているね。」
中沢: 「島課長!いつもわかりやすく教えて頂き感謝しています。早く新しい時代の構造設計者として、その責任を担えるよう頑張りたいと思っています。」
島課長: 「新しい時代か!まもなく来そうだね。その時は中沢くんたちに活躍してもらわないとね。」
中沢: 「わかっています。ところで、性能規定の時代はいつ頃から始まりますか?」
島課長: 「おそらく予定では、来年※1の6月までにはまとまるんだ。平行して来年前半で国会に法案提出、そして可決となり、来年後半に公布、その一年後に施行と言う手順になると予想しているがね。」
中沢: 「なるほど、あと一年半で公布となれば、そこで全容が見えるわけですね。間近にせまったと言う感じです。」
島課長: 「ところで、中沢君、新しい時代ってどう言う時代を想像しているかね。」
中沢: 「そうですね。うまく話しができませんが、構造設計という仕事が創造的で夢の多いそんな職業になっていると思います。」
島課長: 「そうだね。ぜひ、そうあってほしいね。」
中沢: 「そうならないのですか?」
島課長: 「いや!新しい時代と言うか、世の中全体が予測できないほどの未知の時代に突入しようとしているんだ
中沢: 「未知の時代・・・??」
島課長: 「情報革命の時代ってやつだね。」
中沢: 「情報革命ですか?」
島課長: 「そう、以前に産業革命が起こったね。手工業から機械化工業へ大きく社会が変わった時だ。その時と同じくらいのイノベーションが起ころうとしているんだ。」
中沢: 「う〜ん、難しい話しになりそうですね。 島課長!もう少し未来が想像できるよう、わかりやすい表現でお願いします。」
島課長: 「中沢君のつっこみが始まったな。それでは、やさしい話しからいこう。この図を見てごらん。 (図1)免震構造の年代別の評定※2取得数だ。」
図1
図2
中沢: 「1995年の阪神淡路大震災以降が急激に増えましたね。」
島課長: 「そう。しかし、この大震災以前の10年間を見ると、最初の5年間(1985〜1989年)は徐々に増え、残りの5年間 (1990〜1994年)は物件数が徐々に減っているんだ。」
中沢: 「そうですね。免震建物があたかも消えてなくなるかのように! この時期に何が起こったんですか?」
島課長: 「この時期は、バブルが崩壊し、研究部門の縮小と共に、社会ニーズの変化もあったと思うね。」
中沢: 「なるほど、ところがあの大震災で目がさめたってことですね。」
島課長: 「もっと明確に言うなら、常識をくつがえされたってことなんだ。」
中沢: 「常識??」
島課長: 「『建物は安全だ、関東大震災級の地震がきても大丈夫だ』と言う社会常識だね。」
中沢: 「なるほど、この『安全だ』と言う常識が破られ、一方、免震構造に対するニーズが急激に出てきたってことですね。」
島課長: 「そう、このように今までの延長線上にない出来事、すなわち常識では考えられないことが起こること、それがイノベーションなんだ。」
中沢: 「と言うことは、今後益々常識が大きく変わっていくと言うことですか?」
島課長: 「そう言うことだね。常識と言うものは、不変的なものではないんだ。例えば、最近のニュースでは、〔北朝鮮で何が起こっているのか〕と騒いでいるけれど、北朝鮮の方の常識と、我々の常識とではかなり違うね。」
中沢: 「まったく違うでしょうね。」
島課長: 「ところが、我々の常識と欧米人の常識とは、それと同じくらいギャップがあることも気づかないといけないね。」
中沢: 「えっ!ギャップがあるんですか?」
島課長: 「『日本の常識は世界の非常識』とも言われているんだ。」
中沢: 「と言うことは、どういう意味なんでしょう。我々は常識的に、普通に生活している訳ですから・・・。常識ってなんですか?」
島課長: 「自分をとりまく文化や環境及び自分の経験から導き出されたものだね。 」
中沢: 「なるほど、常識とは自分自身の狭い世界の中での認識なんだと言いたいわけですね。」
島課長: 「そう言うことだ。例えば小学生に1+1=10といっても理解できない。小学生にはこのような常識は存在しない。ところが高校生なら、二進法を知っているので、二進法の世界で理解できる。」
「常識の恐いところは、人間は常識と言うモノサシでものごとの善悪を判断したり、行動したり、未来を予測したりするんだ。自分の常識にあてはまらないと、排除したり否定してしまうことがあるね。」
中沢: 「なるほど、自分の常識が狭い場合には、判断まで誤ってしまうわけですね。でも、なかなか常識を超えて考えることは難しいですよね。」
島課長: 「しかし、今はイノベーションの時代の中にいる。 常識のカラを破り、外を見ようとする前向きの力が必要なんだ。先日『はっ!』と気づかされることがあったね。」
中沢: 「なんですか?」
島課長: 「日大教授の石丸先生(免震評定※1副委員長)の講演で、『RC構造物の寿命が300年あれば、固定資産税の考え方もかわり・・・』と言われたときだね。」
中沢: 「300年の寿命ですか。長いですね。今は、建物の寿命は30年から50年ぐらいで考えていますよね。」
島課長: 「そこなんだよ!300年の寿命があるなら、構造設計の考え方がまったくかわるし、税の話におよぶほど広範囲に変化が生じるわけだ。」
「ところが、なかなかそのような発想をもてないし、考えることもない。いつも常識の世界の中でしか動いていないわけだ。しかし今は、固定観念にしばられずにそのような発想や変化に適応できる柔軟性が要求されるときなんだ。今までは仕様規定の中にいた、これから性能規定になれば、益々創造力が必要になるわけだから、前向きなパワーは要求されるね。」
中沢: 「なるほど、イノベーションの時代は常識にとらわれず、それをも超えた視点で見なければいけないわけですね。」
島課長: 「それでは、話しを最初に戻すと、情報革命の後に見えるものとして、建設CALS構想という近未来の建設の世界を描いたものがある。これの目指すところは、住宅やマンション価格を現在の半額以下や、さらには3分の1にするものだと定義する人もいるね。」
中沢: 「価格が3分の1ですか??」
島課長: 「中沢君、今の常識にとらわれてはいけないね。」
「カラを破ることだ。自動車だって以前はだれもが持てる時代ではなかったはずだ。今後は我々建設にたずさわる者たちの手で、住宅を容易に持てるような豊かな社会をつくる使命があると思うね。」
中沢: 「なるほど、新しい時代に対して大きな夢と希望を持たないといけませんね。ところでイノベーション後の常識ってどうなっているんでしょうね。」
島課長: 「おそらく、人種や国をも超えた地球規模的な視点で見ているだろうね・・・。」
(星 睦廣)

※1 この記事は1997年に書かれたものです。
※2 この記事は1997年に書かれたものです。現在、大臣の認定を受けるために必要な日本建築センターでの事前審査のことは性能評価と呼びます。


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