1.はじめに
「BUILD.一貫IV+」における杭頭モーメントの取扱いに関しては、かねてより、マニュアルやホームページのQ&Aにおいて注意点を説明しておりますが、ユーザー様から弊社サポート宛てにいただくご質問において、その扱いを誤解されている方がいらっしゃいましたので、今回、一般的な基礎梁の設計と杭頭モーメントの取り扱いについて再度整理をいたしました。
間違いのないソフト利用をするためには、重要な話ですので、是非ご一読頂きますようお願い致します。
2.一般的な基礎梁の設計の流れ
一般的な構造の場合で、弊社ソフトを使って杭のある建物を設計する場合は、基礎梁を含む上部構造(以下、上部構造)を「BUILD.一貫W+」で解析し、基礎梁を含む下部構造(以下、下部構造)は「BUILD.GPIII」で解析して基礎梁の断面検定を行います。基礎梁の設計を「BUILD.一貫W+」にては行いません。
つまり、「BUILD.一貫IV+」から、「BUILD.GPIII」にデータリンクし、「BUILD.GPIII」で得られた応力により基礎梁の断面検定を行うことで基礎梁の設計を完了します。ゆえに、「BUILD.GPIII」で計算した杭頭モーメントなどを、再度、「BUILD.一貫IV+」にリンクして、改めて上部構造の解析をし直して基礎梁を設計することはしません。
この理由としては、剛強な基礎梁を基本的に設けることで、下部構造の応力変化を上部構造に影響が及ばないようにし、杭頭モーメントは基礎梁のみで処理し、上部構造に影響させないとの安全側の設計方針を立てていることによります。ここで、上部構造の解析において杭頭モーメントを考慮することは、それが基礎梁から柱脚に作用し、柱脚に曲げ戻しを起こさせ、地震力(水平力)により生じる柱脚の曲げを小さくする傾向に作用することが多く、柱脚と基礎梁を危険側にする傾向にあるからです。
また、上部構造と下部構造を分離するモデル化の採用は、次のことも意図しています。
(1) |
杭と基礎梁、上部構造との境界条件及び地盤には不確定要素があり、不測の事態が起こった際の問題が重大となるため、下部構造をより安全側の設計にしておくことが求められます。例えば実際の杭頭は完全固定ではありませんが、杭頭固定度は一般的には完全固定で計算し、杭や基礎梁を安全側に設計します。 |
(2) |
上部構造における解析モデルの支点は、偏心杭の位置になく、柱直下に設定されるため、基礎梁に限っては応力の精度が落ちます。ゆえに偏心杭が取り付く基礎梁の設計を上部構造の解析における応力で断面検定を行うことはお勧めできません。 |
(3) |
施工時の杭心ずれなど基礎部に変更が出た場合、下部構造の応力を上部構造まで影響させる設計は、上部構造の計算をやり直す事になり、確認申請のやり直しや計算の手戻りが大きく、工期遅延に繋がるだけに構造技術者の信頼に係わる問題となります。よって、上部構造に影響しない下部構造の設計が求められています。 |
3.“軽微な変更”扱いと杭心ずれ
建築確認審査の迅速化を図るために”軽微な変更”における対象拡大の運用が始まりました。これにより構造計算上は楽になったと考えている方もおられますが、そう言った話ではなさそうです。
構造耐力上主要な部材の構造計算に関わる法令に何らの変化も加えていないため、計算処理部分における法令解釈は一義的なもので拡大解釈できる要素がありません。
つまり”軽微な変更”にするために、部分的な補足計算書を示して事務手続きが通ったとしても法令を満足している保証を与えたわけでなく、法令を満足していることの責任は常に構造技術者が負っていることに変わりはありません。
構造計算書が法令に適合しているかは、ソフトによる再計算で判断する風潮は今後も変わりませんし、再計算してNGならその責任は構造技術者が負うことになります。
このことから、”軽微な変更” 扱いの迅速化の運用は、構造技術者の信頼を担保として成り立つ運用と言えます。
構造技術者の信頼とは? それは「よくある設計変更を想定しながら事前シミュレーションをしておくこと」にほかなりません。「BUILD.GPIII」を用いることで施工時の杭心ずれ(例えば10cmのずれ)を想定したシミュレーションが容易にできます。事が起こる前に「BUILD.GPIII」で事前にシミュレーションを実施し、問題を回避しておく設計は、構造技術者の信頼のあかしと言えます。
4.杭心ずれシミュレーションの使い分け
多層地盤にも対応した杭・基礎梁一連計算プログラム「BUILD.GPIII」は、施工時の杭心ずれに対応した2通りのシミュレーション機能があります。それぞれの機能を使い分けることで、より的確で経済的な杭・基礎梁の設計が可能です。
以下に、それぞれの特徴と使用場面を示します。
(1) シミュレーション1(杭心ずれ完全対応機能)
この機能は、施工誤差による杭心ずれを例えば最大10cmと入力指定するだけで、全ての杭心ずれモーメントからの到達モーメントを計算し、最も厳しい到達モーメントの組み合わせ応力で基礎梁の検定をします。よって実際の施工時に生じた誤差の最大が10cm以内のずれであるなら、再計算する必要も無く安心で安全なことが保証されます。なぜなら実際の施工誤差を考慮して杭を配置して計算しても、杭や基礎梁の検定が満足する結果となるからです。
シミュレーション1の概要を記述したHPアドレスは次の通りです。
http://www.kozosoft.co.jp/gijyutu/gp3_kuishinzure3.html
下部構造の構造計画において、施工誤差による偏心まで考慮すると設計が難しい場面に遭遇します。このときはシミュレーション1だけでなく、次に示すシミュレーション2の機能を併用することで構造計画が容易にできます。
(2) シミュレーション2(杭心ずれパターンを多数同時に検討する機能)
杭や基礎梁の構造計画において、平面的に不整形な場合は杭の配置や杭径の決定など煩雑になり、さらに杭心ずれまで考慮した設計は大変です。それを容易にしてくれるのがこのシミュレーションです。例えば、前項で示したシミュレーション1で検討したとき、ある基礎梁の応力が極端に大きい場合が生じたとします。どのような杭心ずれのときに大きくなっているかは、シミュレーション1ではわかりません。シミュレーション1では、杭配置の組合せから検定比が最大なるものを示しているだけですので、杭の配置パターンがどのようなときかはわかりません。シミュレーション2は杭の配置パターンを多数同時に検討する機能ですので、ある基礎梁が厳しくなる杭の配置パターンを多数再現することにより厳しくなる配置パターンを特定することができます。この結果により厳しい状態にならない杭配置位置を導き出すことができます。
シミュレーション2における説明の詳細は下記HPアドレスを参照してください。
http://www.kozosoft.co.jp/gijyutu/gp3_kuishinzure.html
http://www.kozosoft.co.jp/gijyutu/gp3_kuishinzure2.html
5.まとめ
以上は一般的な基礎梁を対象としており、柱より比較的剛性が高い基礎梁を想定したときの注意点について以下にまとめます。
(1) |
杭がある場合、基礎梁の設計は「BUILD.一貫IV+」で行わず「BUILD.GPV」にて行う。 |
(2) |
杭頭モーメント(「BUILD.一貫IV+」の許容応力度データ[ADP1]等)を上部構造に作用させない。 |
(3) |
“軽微な変更”の扱いを安心して確かなものとするために、設計変更が起り易いところは、あらかじめ設計(杭心ずれシミュレーション等)をしておく。 |
(4) |
杭心ずれシミュレーションは、「BUILD.GPIII」のシミュレーション1とシミュレーション2を駆使することで適切で経済的な構造計画ができる。 |
杭頭モーメントを上部構造に作用させる設計はあくまで特殊な状況下にあるときで、もし作用させるとするなら上部構造がより安全側になるときに限られます。
最後に下部構造と上部構造を一体解析するモデル化についての注意点に触れておきます。一見するとこの一体解析のモデル化は、実態に近く計算精度が高いと思われがちです。
しかし、地盤や杭頭の境界条件に不確定要素があるため、これらが変動すると、上部構造及び下部構造共、危険側に作用することがあります。つまり、均一でない地盤や不確定要素をモデル化しているということは、不確定要素のバラツキを考慮せずに、ある特定な条件化における一つの解を出しているに過ぎません。
このことから一体解析をするときは「不確定要素を加味した安全を担保する対処」を工学的判断のもとで行う必要があります。
一貫計算(「BUILD.一貫IV+」での取扱い)は、一般的な構造に対応するものですが、特殊な状況下におけるモデル化とその取り扱いへの応用は、できないことはありません。
一体解析において不確定要素を加味した安全をどう担保するか、との命題に対する一手法として、下部構造と上部構造に分離したモデル化を採用する考え方はあります。このとき杭頭固定度の低減や杭頭モーメントをどのように扱うかは、設計する方が工学的判断のもとでより安全側に対処することにより適切なモデル化となりえます。 |
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