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■地震動応答解析のおはなし
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第9話 「固有値とは?(その3)」


中沢: 「島課長!前回のはなしで、建物の固有値についてよくわかりました。固有値を 人間にたとえるなら、人はそれぞれ、特有のくせがあると思いますが、建物に もくせがあり、そのくせで挙動しているようなものですね。」
島課長: 「くせか?ん・・・ん??」
中沢: 「ところで、固有値に関するところを読んでいたら、『モーダル・アナリシス』 という解法にぶつかったんですよ。」
島課長: 「モーダル・アナリシスという解法は、多質点の建物を各固有周期・固有振動形 ごとに応答解析してそれらを重ね合わせ、建物の応答を計算する方法だ。」
中沢: 「あまり詳しく理解していないので、うまく質問ができないのですが・・・。建物の振動は、各次の応答結果を全次数分重ね合わせることにより得られる、 といわれましたね。」
「このことは、建物は建物自身がもつ固有振動形以外の成分では振動しないと言えると思うんですが・・・?」
島課長: 「そのとおりだね。」
中沢: 「でも課長、前回は自由振動のときのみで、地震波が入力したときは、固有振動形以外の成分も入ってくると述べていましたね。」
島課長: 「そのとおりだね。」
中沢: 「ところがモーダル・アナリシスはいろいろな地震波形による振動を、モード分 解して解析しているわけですから、それらを重ね合わせて得られる振動は、固有振動形以外の成分は含まれていないのではないでしょうか?」
島課長: 「建物は、固有モードのみの成分で振動して、それ以外の成分では振動しないといいたいのかな。」
中沢: 「そうなんですよ。それを如実に表しているのが、モーダル・アナリシスという解法ではないでしょうか。」
島課長: 「なるほど、なるほど!モーダル・アナリシスは各次のモード成分のみを重ね合 わせていろいろな地震波に対する応答が得られる。これすなわち、各次のモード以外の成分では振動していないと言いたい訳だね。」
中沢: 「そうなんですよ。」
島課長: 「少し整理しないといけないね。まず地震動加速度波形がある。この地震波が建 物を揺らす。従って建物の応答加速度は、建物自身の応答加速度とさらに地盤 の加速度が加わった絶対加速度で応答しているんだ。この絶対加速度は建物に 作用する力(慣性力)に関係するのでよく使われる加速度であるが、ここでは建物 自身がどのような振動をするのかを議論しているので、絶対加速度か ら地盤の加速度分を引くと建物自身の応答加速度(相対加速度)が得られる。この 応答加速度にどのような成分が入っているかだ。」
中沢: 「そうなんです。その成分は固有値成分しか含まれていないのではと思うんです。」
島課長: 「そのことを明確にするには、応答加速度波形をスペクトル分解すればよくわかるんだ。」
中沢: 「スペクトル分解とは、以前話していたランダム波形も基本周期の波形の集合と考えて分解できるということですね。」
島課長: 「そうだね。例えばt1の周期をもつsin波を入力地震波として、t2の周期(一質点系)の建物に作用させたとすると、その相対加速度をスペクトル分解する と、固有周期のところでピークがあり、またt1の周期のところで小さなピークがあり、それ以外の周期でも応答していることが分かるはずだ。」
中沢: 「どうして固有値以外の成分が入ってくるのでしょうか?」
島課長: 「分かりやすく示すために一質点系のモデルで考えよう。これにある瞬間だけ力(衝撃力)を加えると、その後自由振動をするので、自分自身の固有周期で振動する。さらに、△tだけ後に、同様に衝撃力を加える。これらを繰り 返したのが図1だ。」
図1
「この波形は、衝撃力に対して全て同じ固有周期をもつ応答波形となっているね。 しかし、これらの波を重ね合わせて得られる波形は、次のようになるんだ。」
図2
中沢: 「なるほど、固有周期の成分以外の波も入ってくるわけですね。ところで、この波形は応答加速度ですか?」
島課長: 「話しの流れは応答加速度なんだが、図1・図2共、応答変位と考えてもらった方がわかりやすいかな。更に詳しく話すなら、相対変位だね。」
中沢: 「相対変位とは、地盤の変位分が入っていない、建物だけの変位ということですね。」
島課長: 「そうだね。ここで覚えておいてほしいのは、通常、応答加速度は絶対加速度を指し、応答変位は相対変位を指すんだ。」
中沢: 「なぜ加速度は絶対で、変位は相対で表すのですか?」
島課長: 「建物に作用する力(総せん断力等)を算出するときに、加速度は絶対加速度から、変位は相対変位から直接的に求まるんだ。」
中沢: 「そういうことですか。」
島課長: 「さて、話を戻すと、地震波形は衝撃力が連続的に加わっている状態であると考 えると、図1のようにある瞬間、瞬間は衝撃力に対して自由振動していると言えるね。だから、中沢君のいうように固有値成分のみで振動しているんだ、と言えないこともないね。しかし実際の応答は、これら波形を重ね合わせた波形になるんだ。」
中沢: 「図2をスペクトル分解したら図1の成分の集合にならないのですか?」
島課長: 「ならないね。今までの基本パターンに分解することと違うのは図1の波が全て同じ周期だということだね。図2をスペクトル分解すると、もちろん固有周期 のところは卓越するが、その他の周期をもつ成分もでてくるんだ。もちろんその他の成分とは地震波の成分に相似したもの が多いはずだね。」
中沢: 「いろいろ話を聞いていると、やはり建物の固有値というものは建物の振動に大 きく関係していることがわかりました。さて、それではさっそく実際に地震波 を入力してシミュレーションをしてみたいと思うんですが、その前に島課長! 最も基本的な質問をさせて下さい。」
島課長: 「なんだね。」
中沢: 「あらためてお聞きしますが、なぜ振動解析をするんですか?」
(星 睦廣)


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