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■地震動応答解析のおはなし
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第29話 「復元力特性(その1)」


中沢: 「振動解析は剛性が命、と以前お話し頂きましたが、やはり難しいですね。」
島課長: 「どの辺が難しいかね?」
中沢: 「はい。トリ・リニア型における第1勾配、第2、第3勾配については、詳しく説明頂いたので、ある程度わかったんですよ。」
島課長: 「ふむ、ふむ。」
中沢: 「ところが、除荷が起こったときの剛性はどうなるかなど、この辺のところが皆目わかりません。」
島課長: 「復元力特性のことだね。」
中沢: 「そうです。その復元力特性のことですが、いろいろなタイプがありますが、それをどのようなときに使用すればよいかわからないんです。」
島課長: 「振動解析するにあたって、この復元力特性をどう設定するかは、大変重要なわけだ。」
中沢: 「まったくそう思います。その設定の仕方によっては応答結果にも影響しますからね。」
島課長: 「そういうことだね。これらについて説明する前に中沢君へ言っておきたいことがあるんだ。」
中沢: 「はい、何でしょうか?」
島課長: 「まず、再認識してほしいことは、これから説明することは計算仕様が決まっていて、その通りに計算すれば良いというような、確立された一本道ではないということなんだ。」
中沢: 「ということは、仕様が明確でないから自分で考えなさいってことですね。」
島課長: 「もちろん、よく考えることは必須だね。しかし、限界もあるので、先輩たちがどう悩み、どう判断してきたかを学ぶことも重要だね。そこでだ!あくまでもこれから話すことは、ひとつの方法であり、絶対的な方法ではないってことだけは意識していてほしいんだ。」
中沢: 「ということは?」
島課長: 「即ち、実際の挙動に近づけようとしたり、安全側の結果にするために、様々な仮定やモデル化を採用するが、いづれも正解値にはなりえず、逆に言うなら、仮定条件に設計者のしっかりした考え方が入っているなら、どの結果も正しい結果と言えるわけだ。」
中沢: 「よくわかりました。島課長の話は、ひとつの例として受け止め、あとは様々に応用してみたいと考えます。」
島課長: 「さて、復元力特性について話しを始めよう。柱や梁の部材レベルにおける復元力特性と、層をひとくくりとした層レベルの復元力特性とがある。」
中沢: 「層レベルの復元力特性とは、串ダンゴモデルにしたときの、各層の復元力特性ですね。」
島課長: 「そういうことだね。まずは部材レベルについて話を進めよう。標準型(図1)の復元力特性は、S造における柱や梁の曲げ変形に適用するね。」
図1
中沢: 「せん断変形や、軸変形はどうなりますか?」
島課長: 「それらについては弾性剛性のままで良いね。というのは、S造の場合、柱や梁でせん断降伏することはまずないだろうし、軸降伏するような設計もしないだろうという仮定が働いているわけだ。もしこの仮定が成り立たないS造建物があるとするなら、そうはいかないことは言うまでもないね。」
中沢: 「わかりました。常に『なぜそう仮定したか』については意識してないといけないということですね。」
島課長: 「そう!その他の適用例としては、柱・梁接合部のパネルゾーンにおいては、せん断変形の復元力特性として適用したりするね。」
中沢: 「はい!RC造についてはどうでしょう。」
島課長: 「剛性低減型 (図2)の復元力特性を持ち、これはRC造やSRC造の柱、梁材の曲げ変形の特性として使用されるね。一般には武田モデルとも呼ばれるんだ。」
図2
中沢: 「履歴ループが複雑ですね。このモデルの特徴はなんですか?」
島課長: 「まずこの復元力を提案した武田先生は、現在大林組技術研究所の所長で、常務をされている方だね。」
中沢: 「すごい方なんですね。」
島課長: 「そう!さて、このモデルの特徴なんだけど、以前履歴減衰について話をしたが、復元力の履歴ループの形により、減衰の大きさが違ってくるのは知ってるよね。」
中沢: 「はい、よく覚えてます。」
島課長: 「このモデルは、除荷剛性を、除荷時剛性低下指数で変えることができるんだ。基本的には、実験で得た復元力特性に近いモデルで解析することであり、また、実験と解析モデルの等価粘性減衰定数が一致するように、除荷剛性を決定すべきなんだ。」
中沢: 「そんなに厳密に考えるんですか?」
島課長: 「振動解析は剛性が命、って言ったよね。剛性と直接関係する履歴減衰も応答結果には大きく影響するんだ。ここを忘れたり適当であったりすると、意味のない計算をしてしまうことになるね。」
中沢: 「うーん、やっぱり奥の深さを感じますね。」
島課長: 「超高層建物を構造設計した先人達は、実験から始まり、復元力特性も丁寧に扱い、手作りで解析したはずだね。当然解析上において、剛性や復元力を変化させたらどう応答値に影響するかも調べてね。」
中沢: 「どうも早く覚えたいという一心で、簡単に考えてしまいがちです。」
島課長: 「先日、神戸に住んでいる構造事務所の所長さんに会ったんだ。彼はあの大震災で構造に対する考え方が変わったと言ってたね。」
中沢: 「どのように・・・?」
島課長: 「一言で言うなら、構造に対して『ガンコになった』とね。」
中沢: 「『ガンコになった』ですか!わたしなどはまだまだ敵当なので、安直な対処をしたりしていますね。コンピュータやソフトウェアが便利になり、それゆえ本質を見失っているかもしれません。」
島課長: 「コンピュータやソフトウェアは、益々便利になるだろうね。しかし、それゆえ構造の本質を見失うようでは、構造技術者の未来は暗くなってしまうよ。」
中沢: 「すみません・・・。」
島課長: 「環境が変わろうとも、本質は変わるわけがない。『人命を預かっているという基本に立って、真摯に構造設計に取り組むガンコさ』この辺を先輩達に学んで欲しいね。」
(星 睦廣)


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