株式会社 構造ソフト

製品情報ダウンロードサポート技術情報会社情報サイトマップ


■地震動応答解析のおはなし
トップページ > 技術情報 > 地震動応答解析のおはなし > 第32話


第32話 「復元力特性(その4)」


中沢: 「復元力特性について、だいたいわかって来ました。特に部材レベルの復元力特性と層レベルの復元力特性の取り扱いの違いもよく理解できたと思っています。しかしここで一つ疑問が出てきました。」
島課長: 「なんだね。」
中沢: 「今までの話しの中で、出てこなかった事ですが、通常部材が最大耐力に達した後、さらに変形がすすむと耐力低下が起こりますね。その辺の取り扱いについてはどのように考えれば良いのでしょうか?」
島課長: 「スケルトンカーブ(骨格曲線)において、バイリニアやトリリニアの剛性を説明したが、その後の負の勾配をもつ剛性をなぜ扱わないか?と言うことだね。」
中沢: 「そうです。よく繰返し載荷実験の履歴ループをみると、変形が増大するにつれ、耐力が低下してきますね。その履歴ループのスケルトンカーブを取り出すと、最大耐力以降は負の勾配になっていると思います。」
島課長: 「そうだね。この辺の負の勾配に関する実験結果については学会の資料※1に詳しく載っているね。」
中沢: 「この負の勾配を取り入れたシミュレーションは可能なんですか?」 
島課長: 「可能だね。負の剛性をもたせるか、または不釣り合いな応力を解除し、収斂させながら解析するなどの方法があるね。」
中沢: 「あまりよくわかりませんが・・・。」
島課長: 「この辺は、コンピュータ解析技術の話しだから、良く分からなくてもいいと思うよ。大事な事は、このようなところまで考慮した設計をするのかどうかだ。」
中沢: 「・・・??、しないんですか。」
島課長: 「ここのところは、構造技術者が判断するところだね。しかし一般的にはそのようなところまで考慮した解析はしないね。またソフトウェアも市販されていないんじゃないかな。」
中沢: 「なぜですか?」
島課長: 「最大耐力点を超えた後の耐力が低下するところは、設計上好ましくない領域だね。特にせん断破壊する部材であれば、耐力が急激に低下することになるので、そのような領域に入ってはいけないわけだ。すなわち、レベル2の地震動において設計上はそのような部材をつくり出してはいけないってことが基本にあるんだ。」
中沢: 「せん断破壊部材をつくってはいけない、と言うことはよく理解できます。しかし、実験においては、耐力低下する領域まで、必ず繰返し載荷し、この領域を重要視しているように感じますが、どうでしょうか?」
島課長: 「もちろん、重要な領域ではあるね。例えば、せん断破壊するときは、どれくらい急激に耐力低下がおきるのかを知ることになるし、また曲げ破壊するときには、どのくらいゆっくり耐力が低下していくか、つまりねばり強さを把握することができるね。」
中沢: 「急激とかゆっくりとの言葉がありましたが、もっと具体的に言うとどうなりますか。」
島課長: 「例えば、曲げ破壊の場合、耐力がゆるやかに低下し、その耐力が設計耐力に達したり、急激な耐力低下を起こす点があるとき、これらの点を耐力が保障できる限界変形とするなら、このような限界変形に達しているか否かは、塑性率で判断することができるね。」
中沢: 「塑性率ですか。島課長、少し詳しく説明して下さい。」
島課長: 「新耐震設計法において部材種別と呼ばれているものについては知っているよね。」
中沢: 「FA、FB、FC、FDと呼ばれるものですね。」
島課長: 「そう。これは部材の変形能力の度合を示したものとも言えるんだ。例えば、FA部材であるなら塑性率が6程度までの変形能力を持っているんだ。」
中沢: 「これは何を意味するんですか?」
島課長: 「すなわち、塑性率6を超えたら計算上の曲げ耐力は、保障できないということだね。」
中沢: 「混乱しそうなので、ここで少し整理させて下さい。まず、レベル2の地震において耐力の低下が起こるせん断部材や、塑性率の大きい曲げ部材を設計してはいけないと言うことですね。」
島課長: 「そうだね。」
中沢: 「ここは理解できました。部材レベルと層レベルのスケルトンカーブにあてはめていくと、わからなくなってきます。もう少し説明をお願いします。」
島課長: 「まず層レベルのスケルトンカーブは、各部材が負の勾配に達していないという仮定のもとに成り立っていることになる。」
中沢: 「なぜですか?」
島課長: 「中沢君は、耐震診断をやったことがあると思うが、その時のC-F曲線はF値が大きいところで階段上に耐力が低下していたよね。」
中沢: 「はい!」
島課長: 「そこでだ。部材に十分な塑性変形能力があるから、層レベルのトリリニアのようなスケルトンカーブがつくれるわけで、この仮定が成り立たなければ、C-F曲線のようなスケルトンカーブになってしまうってことなんだ。」
中沢: 「なるほど、各部材は限界変形に達していないという仮定で応答計算しているわけですね。それでは、層レベルの串ダンゴモデルで応答解析した場合に、各部材が限界変形に達しているかいないかをどうやって判断するんですか?」
島課長: 「それは応答の最大層せん断力から最大外力分布をつくり出し、その外力を作用させて部材レベルの静的弾塑性解析(BUILD.DD1)をする。」
中沢: 「保有水平耐力を算出するような方法ですね。」
島課長: 「そうだね。それより部材レベルの応力や塑性率がわかるね。また、串ダンゴモデルの結果として、最大層間変形角が出力されるので、この変形角のときの部材レベルの応力も得られるね。この両方から、せん断破壊した部材があるか、曲げ破壊で塑性率が大きいものがあるかが判断できるね。この辺は以前に別なかたちで話したので(第12話第13話)覚えているよね。」
中沢: 「少し思い出してきました。」
島課長: 「まず最初に設計クライテリアをどう設定するか、ということがあるよね。レベル2の地震に対して最大層間変形角を1/100程度に納めると考える。このようなとき、通常、部材の塑性率は2〜3で4は超えない程度のところにあるんだ。」
中沢: 「と言うことは、曲げ破壊した部材のねばり強さについては、FA部材を使用している限り、気にしなくて良い範囲ということですね。」
(星 睦廣)

--- 本編は、次の質問をもとに構成してみました。---

=質問 大学院博士課程2年生より=
実際の静的加力実験でスケルトンカーブを描くと、最大耐力の後に耐力の低下
(負の勾配)が起こりますが、この辺の扱いはどうするのでしょうか?


1 日本建築学会発行 「鉄筋コンクリート終局強度設計に関する資料」


[第31話へ] [32話] [第33話へ]

[地震動応答解析のおはなしへ戻る]



トップページへ
トップページへ

Copyright (C) KozoSoft Co.,LTD All rights reserved.