「構造計算書偽装事件の社会的背景と耐震性能のほんと!」
〜21世紀にふさわしい耐震性能のマンションとは?〜 |
7. なぜ財産を守れる性能の高い建物ができないのか?
7.1. 建設会社の事情
1990年が過ぎたころから、バブルがはじけ始めました。あれから10数年間一番長いトンネルを通り抜けたのは、銀行業界と建設業界でありました。銀行の不良債権の多くは建設業界が関係するものでしたが、政治判断にて銀行へ公的資金を投入することで、両業界が回復しました。
そのような状況もあり建設業界は必死の企業努力のもと、マンションはバブル期の半額以下で販売できるようになりました。
建設業界はピラミッド型の請負体制が確立されていることを既に述べましたが、このピラミッド型の体制の凄いところは、元請負の金額が決まれば、下請負となる協力会社の金額は、おのずとそれに応じた金額が割り振られます。
このような中、バブル崩壊後に構造設計者から少なくない数の悲鳴が聞こえました。
「構造設計料金は半値8掛け2割引きなんだよ。元請負も厳しい状況であることはわかるが、一人で構造事務所をしているのでなんとか食べていけるんだけどね」と。
構造設計を専門とする個人事務所からの声ですが、しかし彼らが日本の建築構造を支えているといっても過言ではありません。大手建設会社や大手設計事務所にも構造技術者はいますが、社内の人員だけで構造設計に対応できるものでなく、協力会社に頼むシステムも欠かせません。また長引く不況で人員削減もあり尚更そのような状況下にありました。小規模な構造設計事務所といえども、高度な技術レベルをもち、構造設計料もお願いの金額で受けてくれ、彼らはこの業界では無くてはならない存在なのです。
このような厳しい環境下のなかで、建設会社は耐震性能を高める技術習得を盛んに行われていました。自らそれを普及させるだけの大きな動きにはならなかったのは、耐震性能の高い建物を提案しても、建築主の反応も鈍く話が長引くだけでメリットが無かったことの他に、性能の高いマンションの話が決まっても、新しい技術の施工経験者は少ないため、限られた数しか施工ができないとの現実もありました。それゆえ、高い技術を持ち合わせていながらも、既存の技術で数多くの物件をこなすことの方が先決の厳しい環境下であったとも言えます。
7.2. 誰が耐震性能を決めるのか?
さて、建物の耐震性能は誰が決定するのかについて触れてみましょう。
建物の耐震性能は構造技術者が決めるのかというとそうではありません。構造技術者は依頼された耐震性能(すなわち目標性能)に対して、その性能を経済設計のもとで実現することが業務の目的です。
とするなら、元請負の建築設計事務所が耐震性能を決めるのかというと実態はそこにあらずです。さらにその上に建築主であるマンション販売業者がいます。マンション販売業者は、どの場所にどのようなマンションを作るかを企画し、耐震性能も決めることになります。もちろんここで、建設費にいくらかかり、販売価格は何千万円になるとのことまで読み切ります。さらには低価格にしないと売れないとか、間取りが重要だとか、免震構造にして耐震性能を前面に出しましょうとかを決定します。
そのような企画の中で、結局のところ性能の高いマンションが少ないのは、そのようなマンションの要望がないことに起因しています。
しかしながら、今まで説明してきたように需要が無いのではなく、耐震性能の高いマンションが当たり前に造られていると一般消費者は思っているため、さらに高い性能を求める必要がないと勝手に思っていただけのことです。
マンション販売業者は、皆さんが望む建物を造るのを使命としています。もし皆さんが高い耐震性能を求め、それでいて価格の安いものを望むなら、そのようなマンションが多くなります。
結局マンションの耐震性能は、マンション購入者が決めることになります。
そして企業努力により、望む耐震性能と希望の価格に落ち着いていくのが市場経済です。
今までの建築事例で、大地震時に損傷が生じない免震構造の建物が、従来の建物とほぼ同額で建てたとの報告も少なくありません。
高い性能のマンションを購入者が声を出して求めるなら、技術と価格は普及段階にきており、そう遠くない時期に手に入るのではないでしょうか。
7.3. 100年建築、200年建築
欧米をはじめ多くの国は、建物を何百年という期間で使用することに対して抵抗感がありません。むしろそれを誇りに思うくらいの感覚を備えています。一方(最近の)日本人はと言うと世代ごとに住居は新しく造るということに違和感がありません。
これは地震国であるためなのでしょうか?
何百年も使用できるように耐久性を追求して建物を造っても、耐震性能が低く地震に勝てない建物ならバランスが悪く不経済になってしまいます。
それゆえ、日本の鉄筋コンクリート造の建物は、30年から50年ぐらいの寿命として考えられています。
しかし計算書偽装事件をきっかけとして、(民・民の意識が変わり)これから性能設計の時代に突入するとしたなら、大地震時に損傷が生じない性能の高い建物も多くなるはずです。そのような夢の時代が来るなら100年もつ建築や200年もつ建築が出来てもよいわけです。
既に100年、200年建築の技術も確立されています。しかし、一般の人たちがそれを求める声を発する人が少ないために、一部の企業が少し始めているに過ぎません。
100年建築や200年建築を実現するためには、地震に勝てる耐震性能の高いもので無ければいけない点で構造設計のあり方にも関係します。
さらには、施工技術も伴なう必要があり、偽装事件でも発覚した「シャブコン※」を使用するようではとてもおぼつかず、匠の精神と究極の打設技術により生み出される建築物なので、そこへ脱皮する必要があります。
※ シャブコン: |
施工をしやすくするために、水を必要以上に含ませたコンクリートで、性能や品質を低下させることになる。 |
高い耐震性能も、200年建築も建設費を特段高額にする話ではなく、その付加価値に対する対価は問題とならない金額にまで落ちてきています。
後はマンション購入者や販売業者がそのような高い性能を求めるかどうかにかかっていると言えましょう。
|
[6.へ] [7.] [8.へ]
[連載コラム「構造計算書偽装事件の社会的背景と耐震性能のほんと!」へ戻る]
トップページへ
Copyright (C) KozoSoft Co.,LTD All rights
reserved.
|